松本潤、初の医者役の評価は? 仲里依紗との芝居合戦に魅入られたワケ。ドラマ『19番目のカルテ』第1話考察&感想【ネタバレ】
日曜劇場ドラマ『19番目のカルテ』(TBS系)が放送開始した。松本潤が役7年ぶりに同枠での主演を務める本作は、新たに19番目の新領域として加わった総合診療医を描く新しいヒューマン医療エンターテインメント。今回は第1話のレビューをお届けする。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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松本潤、7年ぶりに日曜劇場へ凱旋
「あなたの言葉で聞きたいので。もう一度、お願いします」
神がかったスキルで手術を成功させる天才外科医も、ひとりですべてを解決してしまうスーパーな医師もこの物語には登場しない。物腰柔らかな態度と穏やかな語り口で、患者の言葉を急かさずにゆっくり待ちながら、彼らの病名だけでなく、心に巣食う“病い”を見つけていく。
日曜劇場『19番目のカルテ』は、富士屋カツヒトの漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」を原作としたヒューマン医療ドラマだ。主演を務める松本潤はキャリア初となる医師役で『99.9-刑事専門弁護士-SEASONⅡ』(2018)以来、7年ぶりとなる日曜劇場への凱旋となる。
そんな記念すべきドラマの舞台となるのが、魚虎総合病院に新設された「総合診療科」。18の専門分野に細分化された日本の医療において、総合診療は“19番目”の新領域として期待を集めている診療科だ。
今年、放送されたドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS系)でも、“スーパーローテーション”によってさまざまな専門医のもとで経験を積みながら、将来の専門選択に悩む主人公たちの姿が描かれていた。ただ、消化器科、泌尿器科、耳鼻咽喉科などの専門分野でさえ聞きなじみがあるなかで、総合診療科に関しては「初めて知った」という人も多いのではないだろうか。
整形外科医の滝野みずき(小芝風花)は、なんでも治せる医者を志して医療の現場に足を踏み入れたものの、専門外の症状を抱える患者への対応に思い悩む。そんな彼女の前に現れたのが、“総合診療医”として魚虎総合病院にやってきた徳重晃(松本潤)だった。
各科のキャスティングも絶妙
しかし、病院にとっても新しいチャレンジである総合診療科は、今だにその存在意義が院内に浸透しているとは言えない。それは次々と姿を現した個性豊かな医師たちの表情を見れば一目瞭然だ。
久しぶりの民放ドラマへの出演となる新田真剣佑が演じる東郷康二郎が、手術室でも眉一つ動かさずに「外科医は外科の仕事をするだけです」と告げる姿も印象的。ほかにもファーストサマーウイカが心臓血管外科医の茶屋坂、アーティストの岡崎体育が麻酔科医の大須を演じており、各科に配置された役柄へのキャスティングも絶妙で唸ってしまった。
特定の専門分野をもたない総合診療医は、専門医からすれば医者としてのスキルに疑問を抱くことはあるのかもしれない。しかし、専門がないからこそ、総合診療はあらゆる患者の病気を仕分ける門番として、複雑に入り組んだ症状を診断することができる。
足を骨折して入院していたにもかかわらず、なぜか咳が止まらない横吹(六平直政)に対して、滝野は咽喉科にコンサルトしようとしていた。しかし、横吹の容体が急変した現場に駆けつけた徳重先生はいくつかの質問をして、彼に心筋梗塞の兆候があることを察知する。徳重先生の機転がなければ、一大事になっていたはずだ。
今の医療現場における病院と患者の隔たり
第1話で記憶に残る名演を見せてくれたのが、松本とは『ラッキーセブン』(フジテレビ系、2012)以来の共演となった仲里依紗。彼女が演じた患者の黒岩は、全身を割れたガラスで刺されたような痛みを抱えながらも、周囲には理解されず、病気の診断もつかないままに病院を転々としていた。
カタチとなって見えづらい痛みを、画面の奥にいる視聴者に伝えることは難しい。しかし、仲が演じた黒岩の表情と必死に縋るような瞳には、彼女の目には見えない苦しみが痛いほど伝わってきた。徳重先生から手を差し伸べられる場面では、これまで辛いときでも理性的でいようと我慢してきた本心がこぼれ落ちる。まさに見入ってしまうような芝居だった。
心の痛みや言葉にならない声が、その背景を想像できるような手触りを伴って描かれているところも本作の見どころだろう。同僚が辞めた皺寄せによって、心身の不調を隠して我慢しながら働き続けてしまう黒岩のような人も少なくはない。
医者の言葉よりもインターネットの情報を鵜呑みにしてしまったり、待ち時間の長さに釣り合わない診察時間の短さに不満を持ってしまったり。医療不信に陥っている患者側と、診療の効率も重視しなければならない病院側。今の医療現場における両者の主張の隔たりも、ストーリーの随所に映し出されていた。
これまでの日曜劇場らしからぬ穏やかなテイスト
「誰かに頼るのは悪いことかな」
そう滝野に問いかける徳重先生の言葉を聞いて、このドラマに流れる穏やかな空気感の源には、松本潤の柔らかでゆとりをもった話し方があるのだと気づかされた。
「あなたの痛みは本物です」と黒岩に誠実に語りかけ、整形外科課長の成海(津田寛治)に診療の効率性を疑問視されたときは、穏やかに、でもしっかりと自分の意見を口にする。対話とヒアリングを通して患者たちを問診する徳重先生は、ナチュラルに内心を聞き出しながら、彼らの硬直した心を解きほぐしていく。
個人的に日本の医療への信頼は揺るがない。しかし、高度に発達して専門分野が細分化されたことで、複雑に入り組む症状を診るために各科で連携する最中、エアポケットに落ちて見過ごされてしまう人はいるのかもしれない。
だからこそ、ひとりですべてを解決しようとせずに、各科に橋渡ししながら“人”を診る徳重先生のような総合診療医が必要なのだろう。第2話まで期間が空いてしまうのは残念だが、日曜劇場らしからぬ穏やかなテイストで描かれる医療ドラマの誕生を喜びながら、次回の放送を楽しみに待ちたい。
【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
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