TBS日曜劇場の顔は? 演技が良かった歴代最多主演俳優5選。重厚な芝居で視聴者を魅了する名作製造機をセレクト
text by 阿部早苗
TBS系「日曜劇場」は、半世紀以上にわたり日本のドラマ文化を牽引してきた看板枠である。家族の絆を描くホームドラマから、社会派サスペンスや壮大なヒューマンドラマに至るまで、常にその時代の空気を映し出してきた。視聴者の心を揺さぶり続けるこの舞台において、複数回の主演を務めた俳優たちは、まさに“日曜劇場の顔”と呼ぶにふさわしい存在である。本稿では、その中から最多主演を誇る5人の俳優を取り上げ、彼らが残した名作とともに、その魅力を振り返る。(文・阿部早苗)
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「ミスター日曜劇場」──静けさで家庭ドラマを支配した名優
田村正和
【主な日曜劇場主演作】
『カミさんの悪口』(1993)『オヤジぃ。』(2000)『誰よりもママを愛す』(2006)
【注目ポイント】
かつて「ミスター日曜劇場」と称された俳優がいた。それが故・田村正和だ。90年代から2000年代初頭にかけてTBS系・日曜21時の「日曜劇場」枠において、主演7回という最多記録を打ち立てた存在である。
1993年の『カミさんの悪口』から始まったその歩みは、約10年にわたって続き、『カミさんの悪口2』『カミさんなんかこわくない』『オヤジぃ。』『おとうさん』『夫婦。』『誰よりもママを愛す』と、主にホームドラマを中心に活躍した。
これらの作品に共通しているのは、大事件も大仕掛けもない、ごくありふれた日常の情景だ。しかし、演じられた父親や夫の姿には不思議と説得力があった。派手なアクションも濃密な恋愛劇もない中で、夫婦のすれ違い、親子の不器用な愛情、孤独と責任が同居する中年男性の揺らぎを、セリフの「間」や佇まい一つで浮かび上がらせていた。
なかでも『おとうさん』は、その真骨頂といえるだろう。四人の娘を持つ父親として、それぞれの恋や人生と向き合いながら、不器用なままに愛情を注いでいく。娘たちを演じたのは、飯島直子、中谷美紀、広末涼子、深田恭子といった実力派たち。彼女たちとの丁々発止のやり取りも見応えがあった。
だが、どんなに賑やかな場面でも、画面の中心には田村正和の静けさがあり、その静けさが作品全体に品を与えていた。