津田健次郎がまさに適役…役とリンクする「唯一無二の声」の魅力とは?『19番目のカルテ』第3話考察&感想レビュー【ネタバレ】

text by ばやし

日曜劇場ドラマ『19番目のカルテ』(TBS系)が放送開始した。松本潤が役7年ぶりに同枠での主演を務める本作は、新たに19番目の新領域として加わった総合診療医を描く新しいヒューマン医療エンターテインメント。今回は第3話のレビューをお届けする。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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“すでに”病名が発覚している患者への向き合い方

『19番目のカルテ』第3話 ©TBS
『19番目のカルテ』第3話 ©TBS

「悪い所は全部切り取ります」

 日曜劇場『19番目のカルテ』の第3話では、これまでのエピソードとは状況が異なり、“すでに”病名が発覚している患者に対する医師の向き合い方が描かれた。

 魚虎総合病院で検査を受けた堀田義和(津田健次郎)は、耳鼻咽喉科の平手(本多力)と外科医の東郷康二郎(新田真剣佑)から「下咽頭がん」であることを告知される。

「今なら手術で確実に取り切れる可能性が高いんです」と平出から説明を受ける堀田だったが、康二郎の「後遺症で職場復帰できない可能性があります」という言葉に対して、総合診療科へのセカンドオピニオンを希望する。

 そこまでして彼が手術を拒むのには理由があった。堀田は目前に控える「世界陸上」の実況を担当することが決まっているほどの人気アナウンサーであり、彼にとって“声”は自身のアイデンティティそのものだったのだ。

 そんな堀田を演じるのが、声優に俳優、ナレーションなど、多岐にわたって活躍の場を広げている津田健次郎。まさに適役で、滝野(小芝風花)が再三にわたって「いい声」と呟くのもわかる。彼が唯一無二の声の持ち主であることに、異論を唱える人は少ないだろう。

患者に必要なのは、“説得”ではなく“納得”

『19番目のカルテ』第3話 ©TBS
『19番目のカルテ』第3話 ©TBS

 堀田の要望によって、セカンドオピニオンを託された総合診療医の徳重先生(松本潤)。しかし、完治を目指す康二郎はあくまで「あなたに依頼するのは対話ではなく、説得です」と、外科手術以外に選択肢は残されていないことを強調する。

 外科のスペシャリストがそこまで断言するのだから、おそらくその方法が最善であることは間違いないのだろう。実際、最終的な手術の責任を負うのも外科チームだ。康二郎が話すことは正論に違いない。

 しかし、徳重は患者にとって必要なのは“説得”ではなく“納得”だと言う。元の声が戻らない可能性があることに不安を覚える堀田に対しても、彼は「どの道を選んでも、あなたの人生はこの先も続いていく」と優しく告げる。誰の意見でも決して否定せずに一度は受け入れる懐の深さこそ、徳重の総合診療医としての非凡さに他ならない。

 それにしても、徳重と対峙するとき、康二郎を演じる新田真剣佑の眉一つ動かさない芝居には恐れ入った。冷静に淡々と物事を進めていく中で、どこか不器用な一面も覗かせる。喜怒哀楽があまり表情に出ない役柄ながら、新田の芝居を通して康二郎の人となりが緩やかに伝わってくるようだった。

唯一無二の声を持つ、津田健次郎が演じるからこその説得力

『19番目のカルテ』第3話 ©TBS
『19番目のカルテ』第3話 ©TBS

 声が何よりもの商売道具であるアナウンサーにとって、喉にメスを入れることはどれだけの恐怖なのだろうか。容易に想像できることではないが、手術によって命がつながるとわかっていても、簡単に決断できることではないだろう。

 そして、声を扱う仕事という点において、堀田の人生は津田自身の境遇とも重なる部分があったはずだ。人生を拓いた“声”に対する思いが役柄にリンクする。だからこそ「声を失えば私は死んだのと同じです」というセリフは、とてつもない説得力を持つ。

 さらに、徳重の前で不安な胸の内をさらけ出す堀田の姿は、津田の俳優としての魅力が決して声だけに留まらないことを十二分に示したはずだ。ただならぬ感情が込められた芝居をゆっくりと受け止める松本潤の佇まいもまた、回を経るごとに芯のある温かさを帯びているように映る。

 また、原作ではあまり触れられていなかった妻や娘との関係性を深掘りしたことで、堀田の父親としての立場にも焦点が当てられ、彼の迷いや葛藤、決断に至るまでの過程をていねいに描き出すことに成功していた。康二郎の父親に対する思いを照らし合わせたことも含めて、エピソードの膨らませ方の上手さが光る回だった。

“赤ひげ先生” 赤池(田中泯)が登場

『19番目のカルテ』第3話 ©TBS
『19番目のカルテ』第3話 ©TBS

 そして、今回のエピソードで本格的に姿を現したのが、総合診療医の赤池登(田中泯)。徳重の恩師でもある赤池は、田中泯の飄々とした芝居も相まって、貫禄はあるのにどこか掴みどころのないキャラクターに仕上がっていた。

 実は赤池は原作において、徳重以外とはあまり接点のない人物。そのため、ドラマではどのように彼をストーリーラインに組み込んでいくのか気になっていた。

 初回では、滝野が総合診療医になる背中を押してもらうきっかけとして映し出されていたが、今後はひょっこりと病院に顔を出して、今回のように思いがけない金言をくれる存在になっていくのかもしれない。

「ぶつかるのは同じ助けたいという思いがあるからだよ」という赤池の言葉どおり、康二郎は徳重との対話を通して、患者と医師、双方の理解が先の人生を前向きに歩くことにつながるのだと気づく。総合診療医の徳重が「コンダクター」としての役割を果たしたのだ。

 結果として、堀田の声は2025年の「世界陸上」には間に合わなかった。それでも命がある限り、彼の人生は続いていく。病室に飾られた色紙にある「ロサンゼルス2028が待ってるぞ!」という言葉を信じて。

【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

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【了】

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