3時間超でも退屈知らず…長尺なのに面白すぎる海外映画5選。なぜ飽きない? 映画ファン必見の超大作をセレクト

text by 阿部早苗

3時間を超える長尺映画と聞くと「途中で飽きてしまうのでは?」と身構えてしまう人も多いだろう。しかし、世界の映画史には、その時間を忘れさせるほどの没入感と感動を与えてくれる傑作が数多く存在する。本記事では、長さをものともせず観客を惹きつけ続ける洋画を厳選してご紹介する。長尺であることが、むしろ作品の深みや魅力を支える理由に迫っていきたい。(文・阿部早苗)

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砂漠に描かれた人間の光と影

『アラビアのロレンス』(1962)

映画『アラビアのロレンス』
映画『アラビアのロレンス』【Getty Images】

監督:デヴィッド・リーン
脚本:ロバート・ボルト、マイケル・ウィルソン
出演:ピーター・オトゥール、アレック・ギネス、アンソニー・クイン、オマー・シャリフ

【作品内容】

 第一次大戦中、アラブの動向調査で派遣された英軍のロレンス少尉(ピーター・オトゥール)は、部族を結集してトルコ軍へのゲリラ戦を指導し、反乱軍の中心的存在となっていくが――。

【注目ポイント】

 3時間を超える映画と聞いて、あなたはどんな印象を持つだろうか。「長すぎる」「疲れそう」「途中で飽きるかも」そう感じる人も少なくないはずだ。だが、そんな先入観をたった1本で覆してしまう映画がある。それが1962年公開の傑作『アラビアのロレンス』だ。

 上映時間は約227分。実に3時間半以上にわたる長尺作品だが、不思議なことに、観ている間はその長さを感じさせない。それどころか、映像のスケールの大きさと登場人物の内面に深く迫る物語によって次第にスクリーンの中へと飲み込まれていく。

 物語の中心となるのは、イギリスのT・E・ロレンス少尉。第一次世界大戦中、アラブ民族の独立を支援するために派遣された彼は、現地の人々と心を通わせ、やがて彼らを率いる英雄となっていく。しかしこの映画が優れているのは、ロレンスを救世主として描くのではなく、彼の中にある矛盾や傲慢さ、そして崩壊への過程をも丁寧に描いていることだ。

 たとえば、砂漠を横断して落伍兵を救いに戻るという英雄的行動の直後、自らの手でその兵を処刑せざるを得なくなる場面。そこには、ロレンスの深い葛藤と、次第ににじむ狂気が描かれている。

 本作は、人間の光と影を壮大なスケールで描いた心理劇でもある。理想に燃えた救世主のような存在だったロレンスは、次第に大言壮語と自己陶酔にのめり込み、やがてアラブ民族のリーダーとして翻弄され、疲弊していく。後半では、その精神的な崩壊がより深く描かれていく。

 そして、この作品を語るうえで欠かせないのが映像美だ。広大な砂漠を捉えた長回し、馬やラクダが進む様子を引きでとらえた構図。そのすべてが絵画のように美しい。セリフがなくても、映像だけで語る。そんな体験が、全編にわたって持続する。現代の映画ではなかなか味わえない映画芸術の頂点ともいえる体験である。

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