笑いを堪えられなかった場面も…生徒役・月島琉衣の演技に魅せられたワケ。『僕達はまだその星の校則を知らない』第4話考察【ネタバレ】
磯村勇斗主演のドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)。本作は、いじめや不登校など学校で発生する様々な問題を扱うスクールロイヤー(学校弁護士)が、不器用ながらも向き合う学園ヒューマンドラマ。今回は第4話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想 レビュー】
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天文部が再始動へ――。
この物語で映し出されている一連のトラブルは決してファンタジーではなく、現代の学校でも等しく起こっている問題に他ならない。それでも本作は、ただ危険性だけを抽出して警鐘するのではなく、ひと匙の思いやりを物語に沁み渡らせて、まるで童話の絵本のように私たちの前に広げてくれる。
「やらせてください。天文部の顧問を」
高瀬(のせりん)たちの会話を聞いて、思わずそう口にしてしまった健治(磯村勇斗)。すると、彼の願い出によって、天文部の再始動はとんとん拍子で進んでいく。
「ムムス」どころか「あわあわ」と座り込んでしまう健治に対して、珠々(堀田真由)は健治、ではなく“宮沢賢治”の生涯をとうとうと彼に語り出す。
始めは宮沢賢治の「推し語り」だったはずが、次第に興味の対象は健治に移っていく。彼女自身も気づかぬうちに芽生える健治へのあいまいな感情。
それは健治にとっても同様で、ふたりに共通する「なぜか気になる」「だから知りたい」という素直な思いは、これからどのように変化して、彼らの間につながりを生むのだろうか。
生徒の成績が“誤公開”
さらに、天文部の再始動に向けて浮き足立つなか、濱ソラリス高校ではとある波乱が起きてしまう。期末テストの点数やクラス順位が載った1年梅組の成績一覧が、全校生徒のタブレットで閲覧できる事件が発生したのだ。
学校の顧問弁護士である長谷川(田村健太郎)は、“誤公開”のミスを犯してしまった副校長の三宅先生(坂井真紀)に責任を取っての自主退職を勧める。彼がいちばんに優先するのは保護者への謝罪でもなく、生徒の心の傷のケアでもなく、あくまで学校の体裁。スクールロイヤーである健治との意見の相違も目立ち、今後の対立を予感させる立ち回りだった。
そして、情報漏えいが起きた1年梅組のなかでも、天文部への入部を希望していた江見(月島琉衣)は、クラスで最下位だった自身の成績を周囲に知られたうえ、学習評価欄に書かれた「熱心だがトンチンカンな面あり」という文言を目にしてしまう。
特に“トンチンカン”という言葉に江見はショックを受ける。実際、副校長である三宅先生の評価はあまりにもストレートで容赦がなかった。しかし、それは生徒それぞれの特徴と向き合って、無難な言葉を用いなかったからこそでもある。
実は濱ソラリス高校の梅組「子ども・福祉コース」を存続させることに尽力したのは三宅先生だった。合併後の学校で3コースもあるのは珍しいなと思っていたが、きちんとした経緯があったのだ。
うっかり由来の失言はしばしば見受けられるが、生徒を思う気持ちに嘘はない。三宅先生を演じる坂井真紀の語り口もまた、彼女の裏表のない性格を裏付けているようだった。
先生でも、顧問弁護士でもない健治(磯村勇斗)だから届けられる言葉
「江見さんはもっと悪くありません」「勉強は落第しない程度にそこそこに頑張り、あとは部活動で星空を思う存分楽しむ。そういう高校生活を送る権利もあなたにはあります」
健治はいつだって、個人に責任を押しつけない。そして、学校の先生でも、顧問弁護士でもない彼だからこそ、自由に率直な言葉を生徒たちに投げかけることができる。
ただ、とめどなく溢れる江見の宇宙と天体への思いに対して、「もうテストの話より僕は、江見さんといっしょに星を見たいと思っています」と正直に言えてしまうのはきっと健治だけだろう。ふたりはどこか似たもの同士な気がする。
そんな豊かな感性とまっすぐな好奇心を宿す江見を演じるのは月島琉衣。役柄と呼応するような自然体な芝居はもちろん、さりげなく相手の心を慮る優しさをちょっとした目線や表情の変化で演出する。保育ママでシングルマザーでもある母親役を演じた安藤玉恵との息もバッチリだった。
健治と江見がそれぞれ打ち明けた過去は、普段なら零れ落ちることのなかった本心だったのかもしれない。あの場所はきっと、いつもの学校ではなかった。
頭上に星空が広がる学校の屋上が非日常で特別だったから、彼らは心の底に溜めていた思いを吐き出せたのだろう。三宅先生と江見親子が和解に至る会話も含めて、心の琴線に触れるシークエンスだった。
健治の実家に合宿!?
しかし、今も学校という場所には、星の数ほど多くの問題がちらばっている。成績の下降に思い悩む有島(栄莉弥)や、女子高の制服を着続ける北原(中野有紗)もまた、誰かに見つけてほしいと願う星のひとつなのだろう。
それでも、この物語は決して問題を大袈裟に解決することなく、時折、コミカルな描写を挟みつつ、温かく生徒たちを包み込んでくれる。バレーボールが直撃して呆気なく崩れ落ちる健治の姿には、申し訳ないがどうしても笑いを堪えきれなかった。
事件がひと段落ついたあと、生徒会によって正式に廃部が撤回された天文部の活動がスタートする。ちゃっかり担当教諭となった珠々の「夏の間、屋上と天文ドームは閉鎖されます」との報告にはどよめきが広がるものの、江見の突飛な思いつきで健治の実家への合宿が決まる。
学校が嫌いな健治にとって、居心地のいい居住空間に生徒たちが来るのは、きっと「ムムス」が止まらなくなる出来事に違いない。でも、この夏の星空をみんなで見たかったと声に出すほどまっすぐな天文部の彼らといっしょなら、「ムムス」も少しは息を潜めてくれるのではなかろうか。
【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。