大河ドラマ『べらぼう』“最も演技が素晴らしい悪役”(4)己の欲に忠実な、妖艶な魅力を放つ大文字屋の花魁
text by 西田梨紗
大河ドラマ『べらぼう』前半戦で印象的だったのは、主役だけではなく“悪役”たちの存在感。冷酷、狡猾、妖艶…それぞれ異なる悪の顔を魅せた5人の俳優が放った演技の妙と見どころを振り返る。第4回。(文・西田梨紗)
——————————
妖艶な魅力を放つ大文字屋の花魁を演じる
福原遥(誰袖)
【注目ポイント】
誰袖(福原遥)は、自らの欲望に正直な女である。欲しいものがあれば、どんな手段を使ってでも手に入れようとする。彼女の強引さにおどろいた視聴者も多いだろう。例えば、蔦重を見かければ、人目を気にせず抱きつくし、衰弱し意識が朦朧としている市兵衛(伊藤淳史)には蔦重に500文で自分の身請けを認めるという証文を書かせていた。
誰袖の秘められた策略家としての凄みに視聴者が気付いたのは、第22回「小生、酒上不埒」における意知(宮沢氷魚)に持ちかけた取り引きのシーンだろう。
彼が松前藩の抜荷の証拠を探していることを知ると、廣年(ひょうろく)を利用し、その証拠を提供する代わりに、身請けを要求する。この駆け引きを意知にもちかける誰袖は、まるでファム・ファタールのようだった。意知に艶やかで美しい魅力で迫り、心を惑わす姿は圧巻であった。
誰袖は、自ら語るように「騙し合いの修羅場」を生き抜いてきた女だ。持ち前の賢さと美貌を武器に、幾多の駆け引きを制し、花魁として頂点に君臨した。しかしその輝きの陰には、常に孤独と痛みがつきまとっていたに違いない。
福原遥は、そんな誰袖の多層的な内面を見事に演じ分ける。愛する者に向けた一途な眼差しと、目的のためには冷淡に手を打つ利己性。そのどちらもが真実味を帯びており、花魁という複雑な立場をただの記号ではなく、一人の“生きた人間”として体現している。
【関連記事】
・大河ドラマ『べらぼう』“最も演技が素晴らしい悪役”(1)
・大河ドラマ『べらぼう』“最も演技が素晴らしい悪役”(5)
・大河ドラマ『べらぼう』“最も演技が素晴らしい悪役”(全紹介)
【了】