ゲスト俳優が上手すぎる…ドラマ『19番目のカルテ』キャスティングが絶妙なワケ。第4話考察&感想レビュー【ネタバレ】
日曜劇場ドラマ『19番目のカルテ』(TBS系)が放送開始した。松本潤が役7年ぶりに同枠での主演を務める本作は、新たに19番目の新領域として加わった総合診療医を描く新しいヒューマン医療エンターテインメント。今回は第4話のレビューをお届けする。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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患者への態度にクレームが
今日も今日とて、総合診療医のもとにはさまざまな患者がやってくる。徳重(松本潤)が一人ひとりの話に耳を傾けながら問診を行うなか、滝野(小芝風花)は今だに総合診療医としての道を模索している真っ最中だった。
一方で、滝野の同期である内科医の鹿山(清水尋也)は、彼女が医師の理想と現実の隔たりに葛藤する姿に半ば呆れている。自らは効率を優先して適度に仕事をこなしており、「いずれどっか美容医療クリニックとかで点滴打って生きていくんよ」とぼやく姿も印象的だった。
しかし、そんな鹿山が主治医を担当する安城耕太(浜野謙太)の妻・早智(倉科カナ)からは、彼のどこか他人事な診療時の態度にクレームが入ってしまう。この出来事によって評価が下がることを危惧した鹿山は手っ取り早い解決のため、総合診療医に耕太の診察を丸投げすることに。
清水尋也の芝居の上手さも相まって、ドラマではちょっと嫌味な人物として映し出されてきた鹿山。原作のイメージとは少し印象が異なるが、『19番目のカルテ』の第4話にて、ようやく鹿山というキャラクターが解きほぐされたような気がする。
普段は斜に構えて人生を達観しながらも、滝野の愚直な生き方にはどことなく嫉妬している。鹿山が態度に出さない本心を描いたことによって、互いのキャリアや仕事観がつい気になってしまう同期だからこその関係性を自然と浮かび上がらせることに成功していた。
滝野(小芝風花)と鹿山(清水尋也)に欠けていたもの
本エピソードでは、真逆の考え方でぶつかり合う滝野と鹿山が、ふたりで協力して患者の「疾患」と「病い」を見つけるための方法を模索する様子が描かれている。
鹿山にクレームを入れた早智は夫の糖尿病を治すために、自身ができるさまざまな取り組みを行っていたが、一向に改善の余地がない。だからこそ、彼女の苛立ちは診療時に何も喋らない耕太や、主治医である鹿山に向いていく。
しかし、当の耕太はそんな彼女を怒らせまいとして、逆にストレスを抱えてしまっていた。お弁当を手作りしてくれる早智にも、ランチに誘ってくれる取引先の相手にも気を遣った結果、無理に2回も昼食をとるなど、まさに本末転倒な状況に陥っていたのだ。
お互いが何に困っているのか、本当はどうしたいのか。ふたりには“対話”が必要だった。そして、“対話”が必要なのは患者だけでない。医師である滝野と鹿山にとっても、同じことが言えるだろう。
ふたりの医師としてのスタンスの違いは、診療時間にも色濃く現れていた。10分で耕太の診察を終わらせる鹿山と、2時間にわたって早智の話を聞き続ける滝野。どちらの言い分にも利があるからこそ、彼らの主張は平行線をたどる。
しかし、そんなときこそ本当は“対話”が必要なのではないだろうか。徳重からも太鼓判を押されているように、鹿山は糖尿病という「疾患」に対しては適切な処置を講じられていたが、患者に寄り添うことには無関心。
逆に滝野は患者に寄り添いすぎるがあまり、「患者の話を聞く」という手段が目的になってしまっていた。ふたりともに欠けていた“眼差し”があったのだ。
「疾患」と「病い」を可視化すること
そんな滝野と鹿山に徳重が提案したのが、患者とその家族が抱えている「疾患」と「病い」を可視化すること。
患者と向き合うことに一生懸命になるほど、全体を見るはずの視野が狭くなってしまう。特に滝野は、その傾向が強いのだろう。徳重は「森を意識しながら、木を見る。大事だと思うよ」と語りかけ、一歩引いてマクロの視点から患者を診るように促す。
徳重のアドバイスを踏まえて、滝野と鹿山はそれぞれ耕太と早智から聞きだした互いの性格や生活環境を紙に書き出していく。すると、これまで抱いていた夫婦の関係性とは異なるそれぞれの素顔や本心が見え始める。
何より大きい変化だったのが、滝野と鹿山のやりとりが建設的な話し合いになっていたこと。休憩室で小児科医の有松(木村佳乃)に「今の話、なんか発展性あんの」と言われていたのが嘘のように、それぞれが意見を交わしながら「病い」の解像度を上げていく。
徳重がどこまで意図していたのかは定かではない。それでも、滝野と鹿山にそれぞれ耕太と早智を別々に診察するように指示を出したのは、総合診療科と内科の間でコミュニケーションを取る機会の多いふたりには、今後、間違いなく“対話”が必要になると見越してのことだったのかもしれない。
浜野謙太&倉科カナが見せた不器用な優しさ
引き続き、ゲスト俳優のキャスティングの上手さも光る。頼りなさげな耕太を演じた浜野謙太も、厳しくも献身的に夫を支える妻の早智を演じた倉科カナも、声のトーンや話す口調にそれぞれの人となりが存分に表れていた。
特に耕太が早智に「悲しませたくないよ」と涙ながらに話す姿と、彼女が「私の人生には耕太がいるの」と言葉をかけるセリフには、それぞれが互いを思い合う不器用な優しさが込められていたように思う。ふたりとも本当に絶妙なバランスで安城夫妻を演じてくれた。
そして、診察の最後に、滝野が「聞かせてください」とふたりに語りかける声色は、まるで徳重の語り口を思い起こさせるほど温かくて柔らかい。これまで松本潤が徹底してきた一歩、引いて受け入れる芝居を小芝風花が受け継ぐさまは、滝野が徳重から総合診療医としての姿勢を学んでいく姿とも重なるようだった。
次回、スポットライトが当たるのは、人たらしなだけでなく威圧感のある“怖さ”も垣間見せつつある天才外科医の茶屋坂(ファーストサマーウイカ)。
予告を見る限り、原作にはないオリジナルな要素も加えられるようなので、ファーストサマーウイカがミステリアスな茶屋坂をどのように演じるのか楽しみに待ちたい。
【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。