神シーンだらけ…最高の合宿回!『僕達はまだその星の校則を知らない』に感じる愛おしさの理由とは? 第5話考察レビュー【ネタバレ】
磯村勇斗主演のドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)。本作は、いじめや不登校など学校で発生する様々な問題を扱うスクールロイヤー(学校弁護士)が、不器用ながらも向き合う学園ヒューマンドラマ。今回は第5話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想 レビュー】
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不安と期待が入り混じる夏合宿
再始動した天文部が結束を深めるチャンスでもある夏合宿のはずが、夏休み中はメンテナンスで天文ドームが閉鎖されることに。そんな合宿地の代替案として挙げられたのは、なんと健治(磯村勇斗)の家だった。
思わず電話をかけた祖母の可乃子(木野花)からも、徐々に「ムムス」の概念を理解し始める珠々(堀田真由)からも一様に心配されてしまう健治。それでも、深夜の天体観測を楽しみにする生徒たちのキラキラした表情を脳裏に浮かべる健治は、彼らの“ほんとうのさいわい”のためならと部員たちを自宅に招くことを決意する。
部活動の本を必死に読み込む健治だけでなく、堀(菊地姫奈)から「先生、なんか可愛くなった」と問われて満更でもなさそうな珠々が、その時々の感情にあわせてコロコロと表情を変える姿は微笑ましくてしかたがない。健治の「家のもの」発言に「ムムス」が止まらなくなるシーンでも、一喜一憂がぜんぶ顔に出てしまうチャーミングさが存分に現れていた。
チャーミングで言えば、可乃子もそう。電話越しでは心配していたものの、健治が友達を連れてくることには驚きと喜びが入り混じる。そして、晴れやかな面持ちで布団を干しながら「健治の初めての夏休みの始まりね」と呟く姿には、彼とふたりで過ごしてきた年月すらも感じられて、合宿がスタートする前からすでに胸がいっぱいになってしまった。
夏休みに賑わう「青春」
夏休みが始まると、いたるところで等身大の青春が賑わいを見せる。生徒会の役目を終えた鷹野(日高由起刀)と斎藤(南琴奈)は、共学化した直後には意固地になって交わせなかった握手をあらためて交わす。
さらに、第3話の隠し撮り騒動で一悶着あった三木(近藤華)と内田(越山敬達)も、さりげなく部活動の話をする間柄になっていた。三木はきっと昆虫が好きな内田なら、夜間の採集に興味があると思ったのではないだろうか。
この物語はそんなふうに、これまで映し出されてきた他愛のないやりとりを掬い上げて淡い光を灯してくれる。その瞬間を目の当たりにするたびに、自然と心の内側がストーブをつけたみたいに暖かくなるのだ。
静かな草原で寝転がって、思い思いのタイミングで望遠鏡や双眼鏡を覗いて、美しい星空を共有しながら会話する時間のなんて愛おしいことだろうか。
一つひとつのやりとりが、忘れられない思い出になる。フィルムカメラで撮られた写真を見返しているだけの視聴者でさえそう思うのだから、高瀬(のせりん)が「本当、冗談抜きで一生分の青春を感じた」と澄んだ瞳で言うのも、本心からでた素直な言葉なのだろう。
そして、忘れてはならないのが、江見(月島琉衣)が中学生のころに描いたSF小説から始まり、平和への祈りを捧げるシーン。終戦記念日を目前に控えるなかで、物語の世界とリンクして放送されるこのエピソードも、制作陣が流れ星に祈った願いのひとつなのかもしれない。
健治(磯村勇斗)と珠々(堀田真由)の距離も縮まる
子どもの頃はひとりで眺めていた星空を、たくさんの生徒たちといっしょに見つめる。あのとき体感できなかった青春を満喫する健治は「この宇宙で誰かといっしょにいるってことがこんなにも何もかも違うなんて」と興奮を隠せない様子だった。
見たことのない色に染まる彼の胸中は、合間に見せる表情にも現れて、不安を飛び越えたワクワク感で滲んでいる。健治のあの顔を見るたびに、磯村勇斗の豊かな表現力に感服してしまう。
そして、第1話の冒頭で映し出された健治のセリフが、珠々に向けての言葉だったことも判明する。親兄弟と話すときくらい親しげな口調だったので驚きだったが、それほど健治と珠々の距離が縮まったということなのだろう。健治も珠々に対してはタメ語になり、自身の過去を語り出す。
周りと感覚が違うことを理由にいじめを受けていた小学生の健治は、惑星の軌道のように美しい法律を知ったあと、自ら証拠を集めて訴状を作り、学校と生徒を訴えようとした。
いじめではなく、脅迫罪や傷害罪と名前のついた犯罪。これまでも健治は学校で起きるトラブルを軽々しく考えたことは一度もなかった。そんな彼の断固とした姿勢は、このドラマの制作陣が一貫して、社会や教育の問題と誠実に向き合っていることの証明でもある。
明かせなかった健治の過去
「普通」や「当たり前」を声高々に叫ぶ周囲の雑音から健治を守ってくれたのは、彼の感性を尊重してくれた大人たちだ。
可乃子は「普通になんかならなくていい」と言いながらも、彼が社会のルールに押しつぶされないように、“耳たぶスイッチ”を教えてくれた。20年前に小学生の健治を救えなかったことを後悔していた弁護士の久留島(市川実和子)は、「これは私の社会へのリベンジだから」と彼を独立した事務所に迎え入れた。
子どもの頃みたいに風の色や音の匂いを感じられなくても、今の健治に豊かな感性が残っているのは、可乃子や久留島が彼が迷わず歩くために手すりを作ってくれていたからだった。
ずっと明かせなかった過去を珠々に話したあと、「それが今の僕です」と正直に口にする健治も、きっと彼女なら受けとめてくれると思ったのではないだろうか。その思いに応えるように、珠々は「全部じゃないけど伝わってる。だから、大丈夫」と健治に優しく語りかける。
そっと抱き締めている宝物を、同じような気持ちで眺めてくれる人がいる。それがどれだけ安心できて愛おしい関係性なのか、いつも『ぼくほし』を観るたびに思い出す。
【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。