行政に引き裂かれる親子の愛…日本社会が向き合うべき課題とは?『明日はもっと、いい日になる』第6話考察&感想【ネタバレ】
福原遥が主演を務める月9ドラマ『明日はもっと、いい日になる』(フジテレビ系)が放送開始した。本作は、児童相談所に出向となった刑事が、こどもたちとその親と向き合い、ともに成長していく姿を描いた完全オリジナルストーリーだ。今回は6話のレビューをお届けする。(文・古澤椋子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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社会的に居場所がない“消えた子ども”
社会的な正しさと親子の感情に寄り添うことは、必ずしも一致しない。『明日はもっと、いい日になる』第6話は、互いを想いあう愛情深い親子の姿が描かれた。
翼(福原遥)と蔵田(林遣都)が当直をしていたある夜、男の子が小学校に忍び込んだという通報が。忍び込んだ男の子・一ノ瀬愁(谷利春瑠)は、ハキハキとした物言いでしっかりとしているが、父や母のこと、どこに住んでいるかなどの質問は、明確な拒絶を見せる。愁は浜瀬市の住民データに名前が無く、前に暮らしていたとされる自宅を訪ねても母親は分からないまま。
こういった子どものことを“居所不明児童”と呼ぶそうだ。親が適切な福祉につながれなかったために、親と一緒に住民票がある自治体とは離れた自治体で暮らしていることにより、生活の実態を掴みにくい児童のことだ。
翼たちは、小さな手がかりから、愁の母親にたどり着こうと奔走する。蜂村(風間俊介)の「愁くんはここにいます。もう消えた子どもにしません」という言葉からは、行政の狭間に落ちた子どもを救おうとする覚悟が感じられた。
母を守る子の思い
愁の母親は、1人で息子を育てているベトナム人女性・グエン・チ・リン(フォンチー)だった。日本人の夫と別れて 1年となるリンは、日本語が不自由であるが故に、愁の就学の手続きや住民票などができていなかったのだ。そして、福祉に助けを求めることもできていなかった。行政手続きは、日本人にとってもややこしいものが多い。日本語が不自由であればなおさらだろう。愁が必死に母親を庇おうとしたのは、自身が小学校に行けていないことは何か問題になるかもしれないと思っていたから。愁なりの母親を守る術だったのだろう。
しかし、小学校に行ってみたいという好奇心を抑えることができず、夜中に忍び込んでしまった。漢字を勉強している花蓮(吉田萌果)とのやりとりからは勉強して、母に日本語を教えたいという気持ちも見えた。愁の一つひとつの行動からは、母への無償の愛が感じられる。
リンが福祉を頼れなかったのには、もう一つの理由があった。リンは離婚後、日本人配偶者としての在留資格が切れていたにも関わらず、更新の手続きをせず、不法滞在となっていた。社会的な正しさを前に、親子の感情に寄り添って支援したいという理想論は通用せず、児童相談所としては、入管に連絡せざるを得ない。
不法滞在は許容されるべきことではない。しかし、回想シーンを見ていたら、リンと愁が日本の隅っこで懸命に築いてきた親子としての生活を否定することはできないという心境になってしまった。『MIU404』(TBS系)や『TOKYO MER』(TBS系)で名演を見せてきたフォンチーの異国での生活による戸惑いと息子を思う優しい涙。それと対比するように、母に会えて心から嬉しいという感情を満面の笑みで表現する谷利春瑠の芝居からは、思い合う親子の愛情が感じられた。
最終的に児童相談所メンバーの足掻きにより、愁とリンの再会を叶えることができた。そして、リンの不法滞在は、書類申請の遅れと判断され、在留特別許可が下りるという寛容な対応がされることに。
行政の狭間に落ちた人々
『明日はもっと、いい日になる』第6話は、行政の狭間に落ちた親子をどのように救うか、理想と現実にどのように向き合うかが描かれた。浜瀬市児童相談所の足掻きは褒められたものではなく、社会的に批判されるべきものだ。このテーマを描く上では、リスクの高い内容だった。
しかし、もしリンの元夫が養育費を支払いリンの生活上の手続きを支援していたら、誰かがリンの生活に手を差し伸べていたら、不法滞在には至らなかっただろう。先月行われた参議院選で、外国人をめぐる政策が争点になったばかりだが、法を犯す外国人を責め立てる前に、外国人を含め福祉の支援からこぼれ落ちてしまう人を救う日本社会のあり方を求める方が先なのかもしれない。
社会的なルールに阻まれる親子がいる一方で、子どもにうまく向き合えない母親もいる。次回は、第2話から継続して描かれている安西夢乃(尾碕真花)と翼が改めて向き合う展開となりそうだ。
また、第6話ではわずかな回想シーンから、蔵田自身も虐待児だった可能性が示唆された。後半にかけて、蔵田の過去が紐解かれるエピソードもあるだろう。
児童相談所をさまざまな角度から描いてきた本作。親子の問題だけでなく大人個人の問題にどのように触れていくのだろうか。
【著者プロフィール:古澤椋子】
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
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