松たか子”ネルラ”の魔性に揺さぶられる男たち…揺れる心の行方とは?『しあわせな結婚』第5話考察&感想【ネタバレ】
阿部サダヲ主演、松たか子共演のドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)が放送中だ。本作は、大石静が脚本を手掛ける、妻が抱える《大きな秘密》を知っても愛し続けることができるのか?と夫婦の愛を問うマリッジ・サスペンス。今回は、第5話のレビューをお届け。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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第5話で証明された存在感
「真犯人は自分が見つけます。あなたのために」
『しあわせな結婚』第5話のラストで、いつも車で横並びだったネルラ(松たか子)と黒川(杉野遥亮)が初めて対峙する。
その光景を見て、「松たか子ってすごい」と思わずにはいられなかった。どうして相手の年齢や容姿にかかわらず、誰と並んでも絵になるのだろう。
『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)では、松田龍平、角田晃広(東京03)、岡田将生という全く違うタイプの“元夫”と抜群のコンビネーションを見せていたし、映画『ファーストキス 1ST KISS』では、年齢差18歳の松村北斗と違和感なく夫婦役を演じていた。自分がもし「松さんの相手役を自由に選んでいいですよ」と言われたら、かなり腕が鳴ると思う。
阿部サダヲが体現する“切な面白い”
話を戻そう。前回は胸に秘めていた過去と向き合うことを決意したネルラが、寛(段田安則)に「布勢夕人を殺したのはお父さん?」と問いかける場面で幕引きとなった。
続く第5話は、寛が驚いたように「お前じゃないのか?」と返した途端、突然腹を押さえて苦しみ出す場面から始まる。
すぐに病院に搬送されるが、尿道結石で命に別状はなかった。病院に駆けつけ、ネルラから寛の容態を聞かされた幸太郎(阿部サダヲ)。
「お義父さんが無事でよかった」と胸を撫で下ろしたいところだが、それどころではない。なぜなら、病室に黒川がいたから。寛が救急車を拒否するため、ネルラは考(岡部たかし)やレオ(板垣李光人)に電話をかけるも繋がらず、外で張り込みしていた黒川に助けを求めたのだ。
直前にネルラが黒川の車から出てくるのを目撃していた幸太郎は2人の仲を邪推。不信感や嫉妬で感情がぐちゃぐちゃになり、『ニュースホープ』の名曲コーナーで松崎しげる本人が歌う「愛のメモリー」を聴きながら号泣するシーンは“切な面白い”という新鮮な気持ちになった。
『しあわせな結婚』が描く許せない愛と沈黙の家族
その後、無事退院した寛から幸太郎はネルラが「父と私しか知らない」と語っていた、ある“秘密”について打ち明けられる。布勢(玉置玲央)が亡くなる一ヶ月前、鈴木家に「レオを誘拐した」という電話がかかってきた。
犯人から身代金1千万円を要求され、電話を取った寛は急いで受け渡しの場所へ。ところが、約束の時間になっても犯人は現れず、茫然自失で自宅に戻るとレオが帰ってきていた。
電話はただのいたずらで、犯人はまさかの布勢。その直前、寛は画家としてスランプに陥っていた布勢からイタリアンレストランを開業するための資金を出してほしいと頼まれていた。
しかし、ネルラが画家の布勢に惚れ込んでいることを知っている寛は、しばらく贋作でも描いたらどうかと助言して彼のプライドを傷つけてしまう。結果、布勢は、いずれ自分の跡継ぎにと考えていた最愛の息子・五守を失った経験から、過保護なほどにレオを可愛がる寛を一番傷つける行動を取ったのだ。
そのことがどうしても許せなかったネルラは布勢に別れを告げ、あの事件へと発展する。したがって寛はネルラが、ネルラは寛が布勢を殺した犯人だと15年間思い続けていた。
ネルラが警察に「布勢の女性問題がきっかけで喧嘩になった」と嘘をついたのは、寛を庇うため。寛もまたネルラを疑いつつも、事件に触れてこなかった。五守が亡くなった時も、ネルラや孝を一切責めなかったという寛。この家族は多くを語らず、静かに互いを思い合っている。
「だけど大変だな、家族って」という幸太郎の言葉は呆れているようで、どこか羨ましさが混じっていた。大石静が書く台詞はこういう文字だけでは本心が伝わらないところがいい。自分の家族を温かみのある言葉で表現され、ネルラもどこか嬉しそう。このところ夫婦の間に横たわっていた不和も和らいだようだ。
ネルラに翻弄される二人の男の行方
さて、寛が犯人でなかったことは一安心だが、事件の真相解明は一旦白紙に戻ったことになる。ネルラは警察に本当のことを洗いざらい話そうとするが、それに先回りして黒川に接触するのが幸太郎だ。
幸太郎はネルラが事件の現場で誰かの足元を見ていたことを話し、第三者の線を洗うべきだと助言。その上で、「惚れた女のために一緒に戦いましょう」と持ちかける。黒川のネルラに対する執着心を見抜いた幸太郎は、その気持ちを利用しようとしたのだ。ネルラの夫はあくまでも自分であり、「君が妻を愛していても咎めませんよ」というマウントでもあるのかもしれない。
黒川が15年前の事件の日、警察車両に乗り込んだネルラの顔を見て、ビビッときたのは刑事の勘などではなく、ただの一目惚れだったのだろう。そのことに今になって気づいた黒川が、動揺を隠すように中華を一心不乱に食べる場面がまたいい。いつもは余裕ぶっているが、本当はおぼこい黒川の人間味が溢れていた。
それにしても大の男二人をこんなにも感情ぐちゃぐちゃにさせるネルラの魔性ぶりには驚かされる。冒頭で述べたシーン。自分に近づいてくる黒川に、ネルラは「私を待ってたの?」と聞く。そんな台詞、根っからのいい女でなければ言えない。
それに対して、素直に「はい」と答える黒川。「真犯人は自分が見つけます。あなたのために」という言葉に、ネルラは「そうしてください」とスンとして応えた。なんだか、どこかこうなることが分かっていたかのようだ。松が持つ魔力も相まって、全てがネルラの手のひらの上で転がされているような気がするのは、私だけだろうか。
【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。