原点回帰、夏のエンタメ超大作として復活も…本作が持つ「哀しみ」とは?『ジュラシック ワールド 復活の大地』考察レビュー
スティーブン・スピルバーグ監督によって1993年に公開された一作目から、22年が経つ今年の夏、人気シリーズ『ジュラシック・ワールド』が劇場に帰ってきた。陸・海・空を舞台に、スペクタクルを見せつける恐竜たちや、チャーミングなキャラクター、今回初めて映像化が実現したシークエンスなど、本作の見どころに迫ったレビューをお届けする。(文・灸怜太)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
——————————
壮大なサーガの新章開幕
暑くなってくると全国各地で恐竜博のようなイベントが開催され、「夏休みといえば恐竜」というイメージが強くなっているが、これは史上最大の恐竜フランチャイズ映画『ジュラシック・パーク』シリーズが、毎回サマーシーズンに日本公開されていることもあるのではないだろうか。
スティーブン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』が公開されたのが93年7月。この1作で“恐竜”というコンテンツは一気にメジャー化、映画の続編が2本も製作された。そして15年8月には『ジュラシック・ワールド』としてリブート。6作目『新たなる支配者』では旧三部作のキャスト陣もリユニオンを果たし、全6作の壮大なサーガとして完結した。
そして通算7作目となる『復活の大地』は、大まかな設定は引き継いでいるものの、キャストや舞台を一新してリスタートを果たす“新章”となる。
前作から5年後。世界中に放たれてしまった恐竜たちだったが、現在の地球の気候や環境に馴染めずにその数は激減。いまや赤道直下の限られた地域にだけ生息するようになっていた。
秘密工作員のゾーラ・ベネット(スカーレット・ヨハンソン)は、製薬会社のマーティン・クレブス(ルパート・フレンド)から、新薬開発に必要な3種の恐竜のDNAを採取するというミッションを請け負う。
ゾーラは古生物学者ヘンリー・ルーミス(ジョナサン・ベイリー)や、昔の傭兵仲間であるダンカン・キンケイド(マハーシャラ・アリ)を誘ってチームを編成。小型船に乗り込み、海に生息する巨大恐竜モササウルスのDNA採取を試みる。
一方、家族の絆を深めるために船旅をしていたデルガド一家は、海棲生物に襲われて船が沈没してしまう。たまたま近くの海域を航行中だったゾーラたちは、デルガドのSOS信号を傍受。現場に向かい、無事に家族を救出するが、そこでターゲットであるモササウルスとスピノサウルスの争いに巻き込まれてしまう…。
サービス精神たっぷりの完璧なファミリー向け映画
舞台は絶海の孤島、ターゲットは陸・海・空の3種の恐竜という、アドベンチャーゲームのような見事な設定。なぜその3種のDNAが必要なのかという科学的な根拠はよくわからないが、とにかくステージが変化して退屈しなさそうな雰囲気だけは伝わってくる。しかも、今回の主人公チームは傭兵で戦闘能力が高いハンターということで、恐竜たちとの壮絶なバトルも期待できる。
とはいえ、ファミリー層の観客にも共感してもらえるように、普通の家族も登場して恐竜サバイバルに巻き込まれるという親切設計。各方面に気配りしつつも、サービス精神たっぷりなアトラクション要素が注ぎ込まれた、これぞサマームービーといった組み立てだ。
ゾーラ役には、シリーズの大ファンで、自ら出演を打診したというスカーレット・ヨハンソン。恐竜にも負けないド迫力の肉体をタイトなTシャツにネジ込み、数々のピンチを切り抜けていく。傭兵仲間のダンカンを演じるマハーシャラ・アリは、一歩引いた立ち位置で意外に穏やかな雰囲気。その他のメンバーたちも、そのキャラクターがあまり深堀りされないのだが、これはいつ誰が喰われてしまうのかを予想させないための仕掛けといえるかもしれない。
とつぜん恐竜サバイバルと陰謀に巻き込まれてしまうデルガド一家は、家族想いのお父さん、反抗期の長女と、頼りなさそうなイケメン彼氏、そして天真爛漫な妹というバランスのいい構成。さらにアクイロプスという恐竜の赤ちゃんが懐いてペットのような存在になるという抜け目のなさ。マーチャンダイズが捗りそうだが、最終的にこの家族のなかで一番可愛く見えてくるのが、ちょっぴりピュアなイケメン彼氏というのも面白い。
スピルバーグを追いかけて
監督を務めたのは、『GODZILLA/ゴジラ』(2014)『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』(2016)など、メジャーなシリーズ大作を手掛けてきたギャレス・エドワーズ監督。作品資料によれば、『ジュラシック・パーク』(1993)、そしてスピルバーグ監督の信奉者ということで、本作のオファーに対しても非常に感慨深かったという。
ギャレス監督といえば、心奪われるワンダーなビジュアルセンスが持ち味。本作でも疾走する船と巨大海棲恐竜が並走するシーンや、長いしっぽを持つ巨大なティタノサウルスたちの求愛など、目に焼き付くような印象的な場面が出てくる。
寝ているティラノサウルスの横をそーっと通ってボートを運び出し、そのまま川下りするもティラノがジャブジャブ追いかけてくる、というサスペンスフルなシーンがあるのだが、これはマイケル・クライトンが書いた1作目の原作小説に出てくるシークエンスで、作品資料いわく、今までは技術的な問題などで映像化されなかったシーンを満を持して登場させたそうだ。
復活の裏にある人の思惑と悲哀が重なる
ビジュアル、アクション、サスペンスと、よく練られているのだが、淡々と進む場面もあり、あまりワクワクしないのは、こちらが大人になってしまったからかもしれない。
「ジュラ」シリーズに観客が求めてるものは、なんといっても恐竜たちの活躍だ。恐竜が吠える。暴れまわる。そこで人間がパクパク食べられたりする、「恐竜」の「恐」の部分をきっちり描くからドキドキするのだ。
そこにはシリアスな残虐要素が欠かせないのだが、そのあたりが本作はマイルド仕上げ。レイティングやポリコレ的な問題も影響しているのかもしれないが、どこかでファミリー向けという安全ベルトがガッチリ締まっており、こっちが勝手に期待してるような描写は少ない。スピルバーグ監督はこういう部分こそ容赦しなかっただけに、どうにも“喰い足りない”という感じもする。
ジュラシリーズのテーマである「生命は必ず道を見つける」という命題。これは恐竜にも、サバイバルする人間たちにもかかっている。さらに本シリーズに登場する恐竜たちは科学技術と人間のエゴが生み出したクローンであり、その哀しみを背負った存在というのも味わいを深くしている。
そこに、1度は完結したシリーズなのに、興行の論理だけで蘇らされたような本作の哀愁がオーバーラップしてくる。
ただ、夏休みに映画館で観るぶんには、絶対に楽しめる超大作であることも間違いない。大ヒットしている某アニメ作品よりは血も出ないし、よっぽど健全。サマームービーとは、こうでなくちゃいけない。
(文・灸怜太)
【関連記事】
・【写真】貴重な劇中カットはこちら。映画『ジュラシック・ワールド/復活の大地』劇中カット一覧
・最も復活してほしい80年代の海外映画は…? リメイクが待たれる素晴らしき傑作5選。色褪せない不朽の名作だけをセレクト
・実は超低予算だったメガヒット映画は…? 史上もっともコスパの良いハリウッド映画5選。奇抜なアイデアで世界を変えた作品たち
【了】