なぜ心がほどける? 映画『星つなぎのエリオ』が大人にも響くワケ。ディズニー&ピクサー最新作を評価&考察レビュー

ディズニー&ピクサー製作のハートウォーミングなファンタジー最新作『星つなぎのエリオ』が絶賛公開中だ。愛らしいキャラクターたちの設定や物語に散りばめられた工夫に着目し、想像力に溢れた本作の魅力を、印象的なシーンを振り返りながら掘り下げる。(文・近藤仁美)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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史上最もやさしいファンタジー

『星つなぎのエリオ』
©2025 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

 8月1日公開の映画『星つなぎのエリオ』は、『インサイド・ヘッド』(2015)『リメンバー・ミー』(2017)で知られるディズニー&ピクサーの作品だ。監督は3名。今回が長編初監督のマデリーン・シャラフィアン、アカデミー短編アニメ賞を受賞したドミー・シー、『リメンバー・ミー』で脚本と共同監督を務めたエイドリアン・モリーナだ。日本版のエンドソングは、BUMP OF CHICKENの「リボン」である。

 本作は、公式サイトで「ディズニー&ピクサー史上最も“やさしい”感動のファンタジー・アドベンチャー」と銘打たれているだけあり、とても心温まる物語だ。両親を亡くし、叔母に引き取られた少年・エリオ(ヨナス・ギブレアブ)が、異星人との交流や交渉を経て成長し、自分の居場所に気づいていく。展開の“やさしさ”ゆえにかえって「ほんとか?」と思う部分はあるものの、美しい映像と夢のあるストーリーで、やわらかな余韻を残してくれる。

親しみやすいキャラクターたち

映画『星つなぎのエリオ』
©2025 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

 物語の冒頭には、かつて人類が宇宙に送った「ゴールデンレコード」が登場する。ゴールデンレコードを積んだ探査船の旅は、広大な宇宙を漂う孤独さとともに、「もしかしたら、いずれこの映画みたいなことが起こるかも?」と期待させるつくりで、とても感慨深く観た。

 また、エリオの初めての友達・グロードン(ロミー・エジャリー)は、ひょんなことから出会った異星人だ。大きな口に鋭い歯、エビや幼虫から硬い部分をなくして少しモフモフ感を足したような見た目で、一見ちょっと不気味である。

 ところが、だんだんかわいく見えてくる。本編を追ううち、グロードンの性格や感情表現が読み取れるようになり、エリオだけでなくスクリーンの前の観客も彼に親しみをもっていく。後から振り返れば、この流れそのものが、“出自が違っても互いを知れば仲良くなれる”という本作の在り方を体現しているかのようだった。

 エリオとグロードンといえば、初めて一緒に遊ぶシーンも印象的だ。気の合う友達と羽目を外し、方々を飛び回って好きなものを飲み食いし、それが過ぎてちょっと具合が悪くなる。治ったらまた懲りずに遊んで……という調子で、傍から見ると大変まぶしい。こうした経験は、大人になった後、きっと糧になる。この時間を、ふたりは以後何回も思い出すのだろう。

 また、グロードンの種族では、大人がやわらかい部分を見せるのは恥とされているそうだ。それゆえ、成人した者はみな硬い鎧をまとい、その中で過ごす。社会に出た人にとって、この箇所はちょっと身につまされるだろう。

観客の欲求を満たす仕上がりに

映画『星つなぎのエリオ』
©2025 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

 さて、少し気になる点といえば、ところどころキャラクターの発言や展開が都合よく感じられる部分だ。観る人によっては、これらに行き当たるたび、物語に浸れず我に返ってしまうかもしれない。

 私の場合、特に「そのままの君が好きだよ」というセリフが浮いているように感じた。この言葉は『星つなぎのエリオ』のポスターにも載っており、本作を象徴するセリフのひとつだ。実際、とても良いシーンで出てきて、それ自体は印象深かった。ただ、言葉が端的に整いすぎていて、制作の意図が見えやすくなっていたように思う。

 つまり、「これ、言ってほしい人いるだろうな」という意図だ。娯楽である以上、提供側は受け取り手のどんな欲を満たすかを考えながらつくる必要があるのだが、もう少々艶消し加工がほどこされていると、心にストンと落ちやすかったかもしれない。このあたりが、スケールの大きい物語にどこか箱庭感がある原因になっていたように思う。

 とはいえ、本作には様々な工夫があり、とにかく楽しい。主人公お手製のマントの材料にくすっとし、星々の代表が集まる“コミュニバース”にうっとりするうち、上映時間はたちまち過ぎていく。エリオやグロードンと同い年ぐらいの人から、いつの間にか鎧を着こんだ大人まで、ワクワクできる作品だ。

【著者プロフィール:近藤仁美】

 クイズ作家。国際クイズ連盟日本支部長。株式会社凰プランニング代表取締役。これまでに、『高校生クイズ』『せっかち勉強』等のテレビ番組の他、各種メディア・イベントなどにクイズ・雑学を提供してきた。国際賞「Trivia Hall of Fame(トリビアの殿堂)」殿堂入り。著書に『クイズ作家のすごい思考法』『人に話したくなるほど面白い! 教養になる超雑学』などがある。

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【了】

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