「役と向き合う苦しさを分かち合えた」映画『長崎―閃光の影で―』菊池日菜子×小野花梨×川床明日香、SP鼎談インタビュー

text by タナカシカ

1945年夏、原爆投下直後の長崎を舞台に、若き看護学生3人の姿を描いた映画『長崎―閃光の影で-』が、現在公開中だ。今回は、本作に出演する菊池日菜子さん、小野花梨さん、川床明日香さんにインタビューを敢行。作品や主題歌へ込めた想い、撮影現場で深まった絆についてじっくり語ってもらった。(取材・文:タナカシカ)

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3人が語る、役に臨むまでの時間と心の準備

菊池日菜子、小野花梨、川床明日香 写真:武馬怜子
菊池日菜子、小野花梨、川床明日香 写真:武馬怜子

―――まずは、 原爆や戦争を背景にした物語を出演するにあたって、どのように理解を深められたのかお聞きできますか?

菊池日菜子(以下、菊池)「原案となる看護師の方々の手記を読んだことで、『戦争は恐ろしい』『繰り返してはいけない』という認識だけでなく、それを自分自身の問題として捉えることができました。これまで想像しきれていなかった、当時を生きた人々が抱えていた苦しみや痛みが確かに存在していたこと、その想いを忘れないよう作品に臨みました」

川床明日香(以下、川床)「クランクイン前に、松本准平監督が原爆に関する映像や資料を観る時間を設けてくださったり、3人の関係性を築くために、みんなで一緒に過ごす機会を作ってくださったことで、自然と絆も深まり、作品に入る大きな助けになりました」

小野花梨(以下、小野)「本作のお話をいただいてから、実際に原爆ドームを訪れました。その際、外国人観光客の方がドームを見てとても落ち込んでいた姿が印象に残っています。その姿を見て、原爆という出来事が日本人だけでなく、国を超えて多くの人の心を深く傷つけるほどの衝撃を与えていたのだと改めて実感し、作品に入る前に歴史を客観的に見つめる大切さを感じました」

3人が築いた“同志”としての関係性

菊池日菜子、小野花梨、川床明日香 写真:武馬怜子
菊池日菜子、小野花梨、川床明日香 写真:武馬怜子

―――スミ役を菊池さん、アツ子役を小野さん、ミサヲ役を川床さんがそれぞれ演じられています。撮影に入る前に、監督が3人だけの時間を設けてくださったとお話しされていましたが、本作においては3人の関係性が非常に重要な要素だと思います。その関係性について、どのように解釈し、演じられたのでしょうか?

菊池「同郷の幼なじみでありながら、当時の『国のために女性はどうあるべきか』という価値観の中で、赤十字の看護学生として共に励み合いながら生きていく…。そんな“同志”のような関係性を意識して演じました。撮影前に松本監督が、3人で4分間ただ見つめ合う時間を設けてくださって、その際に、言葉を交わさずともお互いの心に共通の認識が芽生えたと感じています」

川床「グリコをするシーンを3人が初めて揃った日に撮影したのですが、そのとき私が演じるミサヲの、2人への想いがぐっと深まったように感じたんです。その瞬間『きっと大丈夫だ』と、自然と思えました」

小野「この物語の中の3人は、決して性格が似ているわけではないので、時には喧嘩や言い合いになることもあります。でも、それは幼馴染だからこそできることだと思いますし、遠慮のない関係性が彼女たちの絆の深さでもあると感じました。演じるうえでは、仲の良い17歳の女の子たちとしての等身大の関係性を意識して臨みました」

リハなしで挑んだ演技のリアル

映画『長崎―閃光の影で―』
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

―――3人が感情を露わにし、言い合うシーンがありましたが、白熱した演技に胸が熱くなりました。

菊池「この作品では、段取りやテストはほとんど行わず、動きやカメラワークなどの技術確認だけで本番に臨むことが多かったんです。だからこそ、本番の1回目に出たお芝居が、もっとも新鮮に映っていたのではないかと思います。

ただ、このシーンでは薄暮を待つため、本番までに1時間半ほど待ち時間ができてしまって…。その間、3人とも車の中で言葉を交わすことなく、じっと静かに過ごしていたので、現場には独特の緊張感がありました。気持ちを保ち続けるのが本当に大変で、個人的に強く印象に残っている思い出深いシーンです」

川床「あのシーンは、長回しということもあり、1発で撮れるのか凄く不安でしたが、スタッフの皆さんや、2人を信じたからこそできたシーンだと思います」

―――小野さんは、震えた声で悲しみなのか怒りなのか分からないような感情を表現されていて素晴らしかったです。セリフの発し方は松本監督の演出だったのでしょうか?

小野「みんなの関係性もできていたし、スタッフさんや松本監督との信頼関係もできた中で、あのシーンに挑めたことが凄く良かったなと思います。それまで積み重ねてきたものが間違いなくあったので、どんな形で表現できるんだろうと不安よりもワクワクの方が強かったです」

張り詰めた現場を支えた3人の想い

映画『長崎―閃光の影で―』
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

―――かなり精神的に大変な現場だったと思いますが、先程お話しされていたグリコのシーンや笑顔で話したりする場面では、観ているこちらがホッとするような3人の絆が伝わってきました。現場の雰囲気はいかがでしたか?

菊池「役者として、この作品、そして役と真剣に向き合うことの苦しさを、2人が共感してくれたことに本当に救われました。花梨ちゃんが『ずっと心をオープンにしたまま現場にいなきゃいけないから、それが半日、1日と続くと眠れなくなるよね』と声をかけてくれて…。その言葉にすごく励まされましたし、私が精神的に不安定になってしまったときも、2人がそっと寄り添ってくれました。2人には、たくさん心配をかけてしまったと思いますが、キャストやスタッフの方々の支えがあったからこそ、最後まで乗り越えることができました」

川床「朝起きてから3人でホテルを出発し、車で移動して撮影して、また一緒に戻ってくるという、まるで合宿のような日々でした。その時間を共有できたことが、3人の間に強い信頼関係を築くきっかけになったと感じています」

小野「難しい役やシーンに臨むときの緊張感、役の感情を持ち続けていないと不安になる気持ちは同じ役者としてよく分かるので、ずっとひなちゃん(菊池さん)のことが心配でした。現場には『みんなのことを信じながら、手を取り合って、今日1日を何とか乗り越えよう』という優しくて力強い空気が、常に流れていたように思います」

役を離れたからこそ見えた歌の意味

菊池日菜子、小野花梨、川床明日香 写真:武馬怜子
菊池日菜子、小野花梨、川床明日香 写真:武馬怜子

―――福山雅治さん作詞・作曲の主題歌「クスノキ―閃光の影で―」は、菊池さん、小野 さん、川床さんの3人が歌唱されています。ご自身の出演シーンと重なって胸にこみ上げた想いなどはありましたか?

菊池「私も最初は、スミとしての想いを抱えながら今作の台本を持ってブースに入りましたが、いざレコーディングに臨んでみると、自分の中にある感情と、求められているものとが少し違っているように感じました。福山さんから『一度スミとしての複雑な感情を手放して、まっすぐに、静かに届けてほしい』と助言をいただいたので、感情が重くなりすぎないよう、被爆された方々の想いを自分の中で消化し拾い上げるような、祈りにも似た気持ちで“賛美歌”を意識して歌いました」

川床「撮影から1年近く経った頃にレコーディングしたので、役を1度離れてからこの歌を歌えたことに凄く意味があるように思います。命が続いているという象徴のように感じながら歌うことができました」

小野「私は緊張のあまり、実はあまり記憶が残っていないんです(笑)。福山さんご本人の前で、福山さんが作られた楽曲を歌うという状況にとても大きなプレッシャーを感じていました。ただ、その中でも福山さんが温かく寄り添ってくださったことはよく覚えています」

(取材・文:タナカシカ)

【作品概要】

菊池日菜子
小野花梨 川床明日香 ほか
原案:「閃光の影で 原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記 」― ― (日本赤十字社長崎県支部)
監督:松本准平 脚本:松本准平 保木本佳子
企画:中村佳代 プロデュース:鍋島壽夫 マーク服部
制作プロダクション :SKY CASTLE FILM ふればり
主題歌:「クスノキ 閃光の影でー」(アミューズ/― Polydor Records)
作詞・作曲:福山雅治   編曲:福山雅治 / 井上 鑑
歌唱:スミ(菊池日菜子) / アツ子(小野花梨) / ミサヲ(川床明日香)
配給:アークエンタテインメント
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会
2025 年/日本/日本語 /109 分/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch
公式サイト

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【了】

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