なぜ吉沢亮は一瞬で観客を虜にするのか? 「美しい」だけでは語れない存在感…スクリーンを支配する圧倒的な演技の魅力に迫る

2019年のNHK連続テレビ小説『なつぞら』に始まり、今や絶大な人気を獲得した俳優・吉沢亮。整った美しい顔を持ちながら、一方で人間の心の光と闇を映し出す演技力を見せつけ、観客の心を掴んできた吉沢の魅力を、現在公開中の『国宝』に至るまでの印象的な名演技から振り返る。(文・かんそう)
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美貌と演技力が織りなすギャップの衝撃

吉沢亮
吉沢亮【Getty Images】

 私と吉沢亮の出会いは、まるで雷に打たれたような衝撃だった。

 2014年のドラマ『ロストデイズ』での高野ナツ役。フジテレビのサスペンスドラマで、吉沢亮が演じたのは大学生のスキー旅行メンバー7人の中の好青年。だが、このナツ、表面の爽やかさとは裏腹に、恋愛や友情のドロドロした闇に飲み込まれていく。序盤のキラキラした笑顔が、物語が進むにつれ嫉妬や猜疑心で曇っていく姿は、まるで清らかな湖に墨が垂らされるよう。最終話での表情、あの「裏切られた痛み」と「静かな怒り」が混ざった瞳を見たとき、私は思わず叫んだ。

「ナツ、お前…こんな美形でそんなドス黒い感情を…!? 私の心、返して!」

 決定的だったのがNHKの朝ドラ『なつぞら』(2019)だ。彼が演じた天陽くんの純粋でまっすぐな眼差しに心を奪われた瞬間から、吉沢亮という俳優の虜になった。

「吉沢亮は人間じゃなく美の概念なのか…?」

 と。吉沢亮の美貌はまるでルネサンス期の彫刻家が魂を込めて削り出したかのようだ。整いすぎた顔面はもはや凶器。そして吉沢亮の魅力とは、その「美」と「演技力」が織りなす絶妙なギャップにある。

 整った顔立ち、透けるような肌、吸い込まれる瞳。だが、そこから繰り出されるのは、時に泥臭く、時に壮絶な感情の爆発。まるで美の化身が人間の業を背負うような矛盾が、吉沢亮の演技を唯一無二のものにしている。

「こんな顔でそんな芝居すんの…? 反則だろ…」

 吉沢亮の演技を見ていると、心のざわつきが止まらない。例えば『キングダム』(2019)の嬴政。国を統一する野心と、孤独に苛まれる人間らしさの間で揺れる姿は、観る者の心を鷲づかみにし、戦国の荒々しい空気さえもその美貌で浄化してしまう。しかし、次の瞬間には『一度死んでみた』(2020)のクールなハケン社員役で、シニカルな笑みを浮かべながら淡々と毒を吐く。このギャップに私は狂わされた。

 そんな「吉沢亮狂い」の私が自信を持ってオススメしたい吉沢亮主演の映画作品を3つほど紹介したい。

圧倒的な存在感で観客の心を掴んできた吉沢

吉沢亮【Getty Images】

 まずは2020年の映画『AWAKE』での清田英一だ。「AIと人間の将棋の対局」という地味ともいえる題材を、吉沢亮は圧倒的な存在感で「熱い」ものに変えた。将棋以外に人生を歩んでいなかった男が夢破れ、プログラミングと出会い、身も心も狂わされていく。そして再び盤上を前にした時の静かなる闘志、AIに挑む人間の意地と弱さ。その全てを、吉沢亮は一瞬の表情、指先の震え、声の抑揚で表現する。クライマックスの対局シーンでは、吉沢亮の瞳に涙が光る瞬間、こちらまで胸が締め付けられ、

「吉沢亮…お前、顔だけじゃなくて魂まで美しいのかよ…」

 と、スクリーンの前で心臓が止まりそうになった。見終わった後、しばらく席から立てなかったのは言うまでもない。

 2つ目が、2020年の映画『青くて痛くて脆い』での田端楓だ。人付き合いを避け、心にシャッターを下ろした冴えない大学生役だ。本来、吉沢亮ほどの美貌があれば「冴えない大学生」など到底演じられるはずがない。しかし、吉沢亮は違う。その美しさ、カッコよさ、オーラは完全に鳴りを潜めどこからどう見てもクソダサいどこにでもいる大学生へと変貌していたのだ。そして、この映画で吉沢亮はタイトル通り「青さ」と「痛さ」をゲロが出るほど濃密に体現する。

 秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げた楓が、親友・秋好(杉咲花)の喪失と裏切りに直面し、嘘と悪意にまみれながら復讐を企てる姿は、まるでナイフを背中に隠した少年のようだった。冷めた視線、抑えた声の震え、時折漏れる愛憎入り交じった表情。その果てに秋好に「気持ち悪っ」と吐き捨てられるその一言に、私の心はズタズタになった。

『国宝』で吉沢亮は人間の域を超えた

(左から)横浜流星、吉沢亮、渡辺謙【写真:映画チャンネル編集部】
(左から)横浜流星、吉沢亮、渡辺謙【写真:映画チャンネル編集部】

 そして3作目。2025年の映画『国宝』を挙げずに吉沢亮を語るわけにはいかないだろう。『国宝』での吉沢亮はまさに「集大成」とも言える異常なまでの存在感を放っていた。吉田修一の原作を李相日監督が映画化したこの作品は、任侠の一門に生まれながら歌舞伎の世界に飛び込み、女形として人間国宝に上り詰める喜久雄の半生を描いた壮大な一代記。

 吉沢亮が演じる喜久雄は、血と芸の間で葛藤しながら、命を削るように芸を磨く男だ。歌舞伎の舞台シーンでの所作や表情は、1年半の稽古の成果が結実した圧巻の美しさに、「息をするのも忘れるほど」どころか「生きてることすら忘れるほど」だった。

 クライマックス、喜久雄が舞台で舞う「鷺娘」のシーン。あの瞬間、吉沢亮の美貌はもはや人間の域を超えていた。指先の動き、瞬きのタイミング、わずかな首の傾き、全てが計算され尽くした美の極致でありながら、喜久雄の人生の痛みと歓喜が滲み出る。見終わった後、私は思わず自分の仕事用メールアドレスを

 kikuo_no_mai_true_love@gmail.com

 に変えようかと本気で考えた。3時間の長編が「一瞬」に感じられるほどの没入感だった。

美しい瞳に宿る光と闇

吉沢亮(2021年)【写真:Getty Images】

 吉沢亮の凄みは美しさの中に潜む「怪物性」だ。『国宝』での吉沢亮は、まさにその怪物を解き放ったと言える。歌舞伎という伝統芸能の重厚な世界で、喜久雄の人生を自分の肉体と魂を明け渡すように演じ切っていた。

 監督の李相日は吉沢亮について「どこかを見ている様で見てる先が見通せない、何かを感じているようで何を感じているかわからない、何かもの凄い空洞を抱えてる様な雰囲気」と表現したが、これは吉沢亮が役に全てを捧げるからこそ生まれる異様な気配なのだろう。喜久雄の美しさと苦悩は、吉沢亮だからこそ観る者の魂を震わせる。

 私が作ったことわざに、

「吉沢亮の美は、芸を極める」

 というものがある。先程も書いたが『国宝』は吉沢亮のキャリアの頂点でありながら、次にどんな役で私たちを驚かせるのか、期待は尽きない。『キングダム』続編での嬴政のさらなる進化か、あるいは全く新しいダークな役で心を抉りにくるのか。吉沢亮を見ていると、まるでジェットコースターに乗っているようなスリルと、美術館で名画を眺めるような静かな感動が同時に襲ってくる。

 吉沢亮の姿が映るたび、私は思う。「この美しい瞳に、どれだけ光と闇が宿っているんだ…」と。あなたも、このスリルに身を委ねてほしい。映画『国宝』は、まさにそのための最高の舞台だ。

【著者プロフィール:かんそう】
2014年から、はてなブログにてカルチャーブログ「kansou」を運営。記事数は1000超、累計5000万アクセス。読者登録数は全はてなブログ内で6位の多さを誇る。クイック・ジャパン ウェブ、リアルサウンド テックなどの媒体でライター活動を行うほか、TBSラジオで初の冠番組『かんそうの感想フリースタイル』のパーソナリティも務め、2024年5月に初書籍『書けないんじゃない、考えてないだけ。』を出版した。

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【了】

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