「局部を切る女…」ホンモノの犯罪者が登場する映画(1)。日本史上最悪…世間を震撼させた実在の事件
今回は実際に犯罪を犯した人物がスクリーンに登場する作品をセレクト。本人が出演するとなれば、クライム映画ではなく、もはやドキュメンタリー。出所後俳優として出演した作品から、伝説の殺人事件の犯人が出演する映画まで、演技では醸し出せないリアルな悪を目の当たりにできる至極の作品を紹介する。今回は第1回。(文・寺島武志)
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伝説の悪女・阿部定本人が登場
実在の有名殺人事件をモチーフにしたカルト作
『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』(1969)
製作国:日本
監督:石井輝男
脚本:石井輝男、掛札昌裕、野波静雄
キャスト:賀川雪絵、吉田輝雄、中村律子
【作品内容】
吉田輝雄演じる解剖医の村瀬を狂言回しとし、実在の猟奇事件を題材にしたオムニバス映画。取り扱われるのは、下記の4つの事件だ。
1936年、仲居を務めていた阿部定が、性交中に愛人の男性を絞殺し、局部を切り取った「阿部定事件」。煙草屋の女将が引き起こした、阿部定事件との類似点も多い「象徴切り事件」。敗戦の混乱を背景に元軍人の男が7人の女を強姦殺害した「小平義雄強姦殺人事件」。明治を代表する猟奇殺人鬼・毒婦お伝による色仕掛け殺人「高橋お伝事件」。いずれも明治・大正・昭和を代表する殺人事件として知られている。
【注目ポイント】
本作は4部構成のオムニバス映画だが、当時63歳の阿部定本人が出演し、各作品のインターバルに俳優の吉田輝雄からインタビューを受けるシーンが挿入されている。
東京生まれの阿部定は、芸者や娼婦などをしながら各地を転々とし、名古屋の地に腰を落ち着ける。その後、交際相手であった名古屋市会議員の男に、東京・中野にある鰻料理店の女中の仕事を紹介され、偽名を使って働きはじめる。店の主人は、後に局部を切り落とす相手・石田吉蔵だ。
吉蔵と定は惹かれ合い、度々関係を持つようになる。その後、石田と定は駆け落ちし、東京都北区・尾久の待合旅館「満佐喜」に滞在する。
性行為の間、定はたびたびナイフを石田の下腹部に当て、「もう他の女性と決してふざけないこと」と凄んだというが、石田は意に介さなかった。また、石田は「窒息プレイは快感を増す」と、性行為の最中にたびたび定に首を絞めさせたという。
後日、定は石田が眠っている最中に腰紐で彼の首を絞め、死に至らしめる。石田を殺害した後、包丁で彼の性器を切断し、雑誌でそれを包み、逮捕されるまでの3日間持ち歩いた。
事件が明るみなると、国民を震撼させると同時に興奮を呼び寄せることに。阿部定が捕まるまでの間、瓜実顔で髪を夜会巻きにした細身の女性を定と勘違いして通報する騒動が相次ぐなど、夜の街は「阿部定パニック」に見舞われた。定が現れたという情報が流れるたびに、街はパニックになり、新聞はそれをさも愉快なこととして書いた。
定は逮捕後に「私は彼(石田)を愛していたので、彼のすべてが欲しかった。私たちは正式な夫婦ではなかったので、石田は他の女性から抱きしめられることもできた。私は彼を殺せば、他のどんな女性も二度と彼に決して触ることができないと思い、彼を殺した」と述べ、なぜ石田の性器を切断したのか? という問いに対して、「私は彼の頭か体と一緒にいたかった。いつも彼のそばにいるためにそれを持っていきたかった」と供述したという。
定は出所後、名前を変え、見世物一座で講釈師として生計を立て、結婚までしていたが(後に離婚)、1971年に置き手紙を残して失踪し、以後消息不明となった。本作は、昭和を代表する殺人事件の犯人・阿部定の姿が拝めるという点で、貴重な映像資料でもあるのだ。
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