「20世紀最大の虐殺」はなぜ起こった? ホンモノの犯罪者が登場する映画(4)。デヴィ夫人も絶賛…衝撃のドキュメンタリー
今回は実際に犯罪を犯した人物がスクリーンに登場する作品をセレクト。本人が出演するとなれば、クライム映画ではなく、もはやドキュメンタリー。出所後俳優として出演した作品から、伝説の殺人事件の犯人が出演する映画まで、演技では醸し出せないリアルな悪を目の当たりにできる至極の5本を紹介する。今回は第4回。(文・寺島武志)
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「20世紀最大の虐殺」はなぜ起こった?
インドネシアの黒歴史に迫る衝撃のドキュメンタリー
『アクト・オブ・キリング』(2012)
原題:The Act of Killing
製作国:デンマーク・ノルウェー・イギリス
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
キャスト:アンワル・コンゴ、ヘルマン・コト、アディ・ズルカドリ、イブラヒム・シニク
【作品内容】
1965年9月30日、スカルノ大統領の統治するインドネシアで、6人の軍幹部が共産党系軍人に殺害されるクーデター事件が発生。その後、スカルノに代わって軍の指揮権を得たスハルト将軍が反乱鎮圧を名目に、共産党の排除・弾圧を敢行。本作はその「インドネシア共産党員狩り」と、その後を追った作品だ。
スハルト陸軍少将による、クーデターの元締めであるインドネシア共産党勢力への追い打ちは壮絶だ。まず、首謀者とされたウントゥン大統領親衛隊隊長が拘束され、また事件に関与したとして、ジャカルタにあるインドネシア共産党の施設が市民の手で焼き払われ、中国語教育や文化活動も一斉に禁止された。
その後、インドネシア共産党書記長のアイディットをはじめとする共産主義者に対する集団虐殺が起きた。これは、「20世紀最大の虐殺の一つ」とも称され、犠牲者の数は現在でも正確には把握されていないが、一説によると300万人とも言われている。クーデターへの報復行為がヒートアップする形で実行された虐殺は、事件直後の1965年10月から、スマトラ、ジャワ、バリで続いた。
【注目ポイント】
「インドネシア共産党員狩り」で大きな役割を果たしたのは、国軍や動員された青年団、イスラム団体、ならず者集団であったといわれている。つまり、軍人のみならず、民間人までもが虐殺行為に加担していたことになる。
虐殺の実行者は、現在でも国民的英雄としてインドネシア国内で悠々自適に暮らしている。「インドネシア共産党員狩り」を追うアメリカの映像作家ジョシュア・オッペンハイマーは、インドネシア当局に被害者への取材を申し出たところ、拒否されてしまう。そして、取材対象を加害者側に切り替えた。本作の撮影方法は過激そのもの。虐殺を行った実行者にフォーカスし、彼らに虐殺時の行動をカメラの前で再現してもらうのだ。
劇中では、オッペンハイマー監督の「カメラの前で自ら演じてみないか」という提案に応じ、意気揚々と過去に行った虐殺行為を再現する加害者たちの姿が記録されている。そして、過去の蛮行を演じていくにつれて、加害者たちの心境にも変化が訪れる。
クーデター発生時の大統領・スカルノは1970年に死亡し、大虐殺の指揮を執ったスハルトも2008年に死亡したため、権力者の口から事件の真相を聞くことは不可能となった、また事件後の「共産主義者狩り」に動員された人々の多くが被害者側からの報復を恐れて口を閉ざしていることも、事件の全貌解明を難しくしている。よって、この大虐殺は、インドネシアの“闇の歴史”として葬られようとしているのだ。
なお、同作に関わった多くの現地スタッフは、事件がインドネシア国内では未だにタブーであり、名前を明かすことで、その身に危険を伴うとの理由から、「ANONYMOUS(匿名)」としてクレジットされている。ちなみに、スカルノの第3夫人であったタレントのデヴィ・スカルノは本作を高く評価し、オッペンハイマー監督に「夫の汚名をそそいでくれた」と感謝の意を表している。
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