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闇が深い…上映禁止・お蔵入りの日本映画(4)。わいせつ過ぎて裁判沙汰! 日本初のハードコアポルノは芸術か

text by 寺島武志

映画の舞台挨拶で、監督や演者が感謝の言葉を口にする場面を見たことがあるだろうか。彼らは、映画が公開されるのは当たり前ではないということを知っている。苦労やトラブルに見舞われながら作り上げるものなのだ。しかし、この世にはせっかく作られたにも関わらず、公開中止された映画がある。今回は残念ながらお蔵入りの憂き目を見た映画を紹介する。(文・寺島武志)

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芸術か猥褻か…? 日本初のハードコアポルノ

『愛のコリーダ』(1976)


出典:Amazon

原題:L’Empire des sens
製作国:日本・フランス
監督・脚本:大島渚
製作:アナトール・ドーマン、若松孝二
キャスト:藤竜也、松田暎子、中島葵、芹明香、小山明子

【作品内容】

大島渚監督Getty Images

舞台は日中戦争前夜の昭和11年(1936年)。料亭の主人・吉蔵(藤竜也)と住み込みの女中として働く阿部定(松田暎子)は恋仲になる。関係が周囲にバレると、2人は料亭を出て、安宿の一部屋で昼夜問わず体を求め合うようになる。徐々に2人の性行為は常軌を逸し、互いの首を絞め合うなど、アブノーマルな色合いを強めていくのだが…。

【注目ポイント】

戦前の日本をざわつかせた「阿部定事件」を映画化した作品は数多いが、その中でも圧倒的に生々しい性描写で知られ、「日本初のハードコアポルノ」として名高いのが本作だ。

あまりにも過激な性描写を含むため、フランスから取り寄せたフィルムで撮影を行い、撮影されたフィルムをもう一度フランスに送った上で編集を行うという手法で完成させた。

日仏合作とされているが、プロデューサーとして、フランス人のアナトール・ドーマンが関わっている以外は、監督・脚本の大島渚、助監督を務めた崔洋一以下、キャストもスタッフも日本人。事実上の日本映画だ。ちなみに、題名の「コリーダ」はフランス語ではなく、スペイン語の「闘牛」を意味する言葉である。

さまざまな性的な描写や陰部が無修正で撮影されており、定を演じる新人女優の松田暎子と吉蔵を演じる人気俳優の藤竜也の性交シーンでは本番行為が確認できる。ピンク映画ですら“疑似本番”が当たり前とされていた時代、問題にならないはずはなかった。

当然ながら、日本公開時には大幅な修正が施されたものの、問題はそれだけでは終わらなかった。シナリオや劇中写真を収めた同名の書籍がわいせつ文書図画に当たるとして、警視庁に刑法175条の「わいせつ物頒布罪」に問われ、監督の大島渚と出版社の社長が東京地検から起訴されたのだ。

この裁判では、究極の愛を描いた本作が「芸術か猥褻か」を争う注目の裁判となった。結果、憲法判断により無罪を勝ち取ることになる。本作は裁判沙汰を引き起こした“問題作”として注目されただけではなく、欧米を中心に芸術作品として高い評価を受け、1976年のカンヌ映画祭でも上映され、観客を魅了した。

日本でも、2000年12月には初公開時にカットされた未加工・未編集の素材をほぼ完全に復元したバージョンが『愛のコリーダ2000』として公開された。ちなみに、こちらのノーカット版でも、当然のことながらモザイクが入っている。大島渚が望んだモザイクなしの完全版を観るためには、海外で発売されているDVDを取り寄せるしかない。

大島渚監督といえば、1983年公開の『戦場のメリークリスマス』では、英国のロックスター、デヴィッド・ボウイや、当時、人気急上昇中ながら、演技経験ゼロの若手漫才師だったビートたけし、先頃亡くなった世界的音楽家の坂本龍一をキャスティングするなど、挑戦的な作品を発表し、そんな彼の作風に影響を受けた映画人は世界中に存在する。ビートたけし(北野武)も、そんな“大島チルドレン”の一人である。

スキャンダルに満ちた問題作ではなく、男女の性愛を鮮烈に描いた名作映画としてぜひ一度鑑賞してみてほしい。

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