なぜ“やりがい搾取”は横行するのか? 映画『アシスタント』は、映像業界の闇を暴く静かなる衝撃作。忖度なしガチレビュー
text by 島 晃一
ハリウッドを発端に巻き起こった#Me Too運動を題材に、今日の職場における、やりがい搾取、性差別を掘り下げた映画『アシスタント』が、6月16日より公開される。今回は、本作が提起する問題を深く読み解いたレビューをお届けする。【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】(文・島 晃一)
数千もの映像業界の働き手にインタビュー
あらゆる職場での搾取を見つめる
2017年、業界に大きな影響力を持っていた映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインを告発した記事が発表されると、MeToo運動は急速に広がった。『ジョンベネ殺害事件の謎』(2017年)などで知られるドキュメンタリー映画作家キティ・グリーンが、この運動を題材に、自身初となるフィクションとして掘り下げたのがこの『アシスタント』だ。グリーンは監督のみならず、脚本、製作、共同編集も担っている。
今年1月には、ワインスタインの性的搾取を告発した女性記者2人の回顧録に基づく『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が日本で公開された。『アシスタント』は、同じくワインスタインの件がきっかけではあるものの、監督はその後、映画やテレビ業界の多くの人々に話を聞き、何千という話を集めた上で劇映画として練り上げていったようだ。プレスリリース記載のグリーン監督の言葉を借りると、この映画は「ドキュメンタリー作品のようなリサーチに基づいたフィクション映画」である。
本作の主人公は、映画制作会社で働くジェーン。彼女の名前は、匿名の女性、あるいは身元不明の女性を指す言葉、Jane Doeから来ているという。また、ワインスタインをモデルにしていると思しき大物映画プロデューサーが劇中に出てくるものの、その姿を一切見せず、声だけが聞こえる。
この映画は、ワインスタイン事件やエンターテイメント業界だけでなく、あらゆる職場での搾取を見つめた作品だ。