名シーンの元ネタは…? 映画『ロスト・イン・トランスレーション』、CM撮影のシーンに隠された秘密を深掘り解説
映画『ロスト・イン・トランスレーション』と言えば、ボブ・ハリス役を演じたビル・マーレイが、上品に「サントリー、タイム」と言い、微笑むシーン。日本でウイスキーのCMを撮影するというこのシーンは、深く印象に残っている方も多いはず。今回は米colliderに基づき、このシーンが生まれたきっかけや込められた意味を解説していく。
日本でのCM撮影に戸惑うアメリカ人俳優を描いたシーンの裏話とは?
ソフィア・コッポラ監督が製作を務めた、映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)。日本の首都である東京が撮影舞台となったことで、多くの人気を獲得した。
ロマンティックな内容の映画作品としては、非常に独特な雰囲気を持った唯一無二の作品となっており、日本を異国の地として捉える本作は、馴染みのある日本のカルチャーや常識を、不思議な違和感を抱くものとして表現されている。
本作に登場する中心人物は、俳優業を営むボブ・ハリス(ビル・マーレイ)。彼は、サントリーウイスキーとの100万ドルのコマーシャル契約のため、日本を訪れた。
東京のパークハイアットのバーでウイスキーを嗜みながら、ポルシェの購入などを考え、健康の手段としてパスタを食べることをやめ、日本食に変えようと考える彼は、本作で登場する言葉を借りると、いわゆる中年の危機を迎えている一人の男性だ。
実は、ソフィア・コッポラ監督が映画『ロスト・イン・トランスレーション』でボブ・ハリスというキャラを生み出し、彼を映画作品内でサントリーの広告、CMに出演させたのには元ネタがある。
それが、ソフィア・コッポラの父親フランシス・フォード・コッポラと、黒澤明が登場するサントリーのCMである。
作品内では、俳優ビル・マーレイ演じるボブが、不機嫌に椅子に座り、グラスを片手に、カメラマンと懸命にコミュニケーションを取ることを試みる。
このシーンは、厄介な言葉の壁を乗り越え、仕事を進めようとする、本作で最も愉快なシーンのひとつだ。
カメラマンはボブに対して、映画『007』シリーズのボンド役を演じた俳優ロジャー・ムーアのようなポーズを取るように頼む。これに対し、ボブはショーン・コネリー版のジェームズ・ボンドの方が好きだと発言するが、それでもカメラマンの指示に従う。
なお、俳優ロジャー・ムーアはサントリーのCMに出演したことはないが、俳優ショーン・コネリーは、1992年のサントリーのCMに「時は流れない。それは積み重なる。」というコピーと共に出演している。
つまり、実はこのシーンも、ボブにとっては、ショーン・コネリーのようなポーズを、と指示された方が非常にわかりやすい。
カメラマンが、何故ロジャー・ムーアのポーズを選択したのか疑問が残る場面となっており、ここでも、『ロスト・イン・トランスレーション』という題名のように、ボブにとっては、異国の地の不思議な違和感を感じるシーンとなっているのだ。
また、本作の監督であるソフィア・コッポラは、サントリー100周年記念のトリビュート映像『Suntory Time(サントリー・タイム)』の製作も手掛けている。
その映像には、ボブ・ハリスがウィスキーグラスを持つシーンが登場するだけでなく、1970年代に、サントリーウイスキーのCMに出演した黒澤明監督や、映画『マトリックス』シリーズ、映画『ジョン・ウィック』シリーズで人気の俳優であるキアヌ・リーブス、ロックバンドRADWIMPSのボーカルである野田洋次郎、そして映像後半には、それぞれの時代に親しまれたCMに登場した、日本の大スターである三船敏郎、井上陽水、大原麗子、古手川祐子も登場する。
サントリーのキャンペーンに参加することに非常に消極的なボブ。どこか後悔と戸惑いを抱えている中、東京という別世界のような空間で、新しい友人となったシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)が、彼の存在に新たな息吹を吹き込む。
人生の目的をめぐる、不安な気持ちに対し、ハッキリとした解決に至ることはないが、互いに慰めを見出す。
曖昧でありながらも、親しみやすい本作は、公開より20年経った今でも観客の心に響いていることは間違いない。
この美しい映画作品のインスピレーションは、幼いソフィア・コッポラが、父親と黒澤明がサントリーウイスキーのCMに出演しているのを見たことから始まっていたのだ。
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