ホーム » 投稿 » 日本映画 » 劇場公開作品 » 「目には見えない世界を尊重したい」松井玲奈主演映画『緑のざわめき』夏都愛未監督、独占インタビュー

「目には見えない世界を尊重したい」松井玲奈主演映画『緑のざわめき』夏都愛未監督、独占インタビュー

text by 山田剛志

女優の松井玲奈主演を務め、福岡、佐賀を舞台に、3人の異母姉妹が織りなす物語を描いた映画『緑のざわめき』が9月1日より公開される。今回は本作のメガホンをとった夏都愛未監督への独占インタビューをお届け。文学作品から受けた影響、物語に込めた思いや撮影スタイルに至るまで、幅広くお話を伺った。(取材・文:山田剛志)

————————-

【夏都愛未 プロフィール】

1991年5月1日生まれ、神奈川県出身。2014年に『3泊4日、5時の鐘』(15/三澤拓哉監督)で女優デビュー。2018年に山戸結希企画プロデュース作品『21世紀の女の子』の中の短篇『珊瑚樹』で監督デビュー。長編初監督長編『浜辺のゲーム』(2019、日本=タイ=マレーシア=韓国)では、監督・脚本・編集を担当し、第14回大阪アジアン映画祭コンペティション部門に正式出品された他、ニューヨークジャパンカッツ、カンボジア国際映画祭、アートフィルムフェスティバル(スロバキア)に選出された。2022年に公開された映画『あなたの微笑み』(リム・カーワイ監督)に出演。

「女性の物語を語りたかった」
連帯しようとする女性の姿を描く

写真:武馬怜子
写真武馬怜子

――――試写で拝見したのですが、異母姉妹3人の交流を軸に、それぞれが直面する現実的な問題と周囲の人物達の物語が絡まる壮大な作品でした。シナリオは夏都監督のオリジナルですね。まずは、脚本づくりの出発点について、お話を伺えればと思います。

「女子会をテーマにした前作『浜辺のゲーム』(2019)では、3人の女性をメインの登場人物にして、彼女たちの感情や考えが食い違ったり、交差する物語を作りました。今回は前作の試みを活かしつつ、前作とは異なる要素として、敬愛する大江健三郎や中上健次の文学のエッセンスを取り入れた映画を作りたいという思いが出発点にありました。また、そのようにして紡いだ物語を私の生まれ故郷である九州で撮りたいという思いも最初の段階でありました」

――――血が半分だけつながった人々の物語である点など、夏都監督が先ほど仰ったように『岬』や『枯木灘』をはじめとする中上健次の影響を感じました。中上の小説を読むきっかけは何だったのでしょうか?

「製作の小野光輔さん、以前、私が一緒にお仕事をさせていただいた女優・映画監督・プロデューサーの杉野希妃さんから、オススメされたのがきっかけですね。読んでみたらすごく影響を受けました」

――――男同士の濃密な関係を描く中上作品では、モラルを超越した怪物のような父親が登場します。一方、本作では父親がキーパーソンではありますが、一切画面に登場しません。その点、中上作品との共通点も感じさせつつ、独自の要素もしっかり入っていると思いました。

「中上の小説には『千年の愉楽』に登場するオリュウノオバなど、存在感のある女性も登場しますが、仰るとおり男たちの生き様が濃密に描かれていると思います。しかし、私自身女性であり、中上の世界観に着想を得つつ、三姉妹を描くことで女性の物語を語りたいという思いが強くありました」

―――――中上作品と対照的な点は他にもあります。中上の小説ではしばしば血のつながりを断ち切ろうとする人たちが描かれますが、本作では人間同士のつながりが希薄な、現代的な人間関係がベースにありますね。

「中上が小説で描いている世界・時代と違って、現代では個人同士の強固なつながりが生まれづらいと思っています。多くの地方出身の若者は都会に出て孤独を抱えていますし。そういった点で、これからは自発的に出会いを求めたり、無理をしてでも他者と繋がろうとするアクションが大きなものを生むような気がしています。

共同体が生まれにくい時代ではありますが、特に女性たちの連帯は今後ますます大事になってくる。今回の映画ではそうした思いを込めて、連帯しようとする女性たちの姿を描くことにしました」

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!