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公開前から賛否両論…! 映画『耳をすませば』ガチレビュー。実写版ならではのアレンジは吉と出たのか凶と出たのか…? 徹底考察

text by 編集部
©︎柊あおい集英社©︎2022耳をすませば製作委員会

1989年に雑誌『りぼん』で連載された不朽の名作『耳をすませば』。1995年にはスタジオジブリ製作のアニメ映画が劇場公開され大ヒット。アニメ版の発表から27年経った今年、大人になった月島雫を清野菜名、その初恋の相手・天沢聖司を松坂桃李が演じる実写版『耳をすませば』が公開される。原作に独自のアレンジを加えた実写版は果たして、原作コミックやアニメファンの心を掴むことができるのか。日本最速(自社調べ)レビューを試みた!

 

実写映画『耳をすませば』はジブリ版のリメイクではない

実写版『耳をすませば』の原作は、柊あおいによる同名コミック。1995年公開のスタジオジブリ版とは、母体としての原作を同じくする姉妹のような関係にある。したがって、アニメ版=オリジナル、実写版=リメイクという関係ではない。両者はモチーフを共有してはいるものの、基本的に別物の作品である。

©︎柊あおい集英社©︎2022耳をすませば製作委員会

とはいえ、スタジオジブリ製作のアニメ版に強い愛着をもっている人は多く、比較したくなるのは無理もない話だろう。本記事では、アニメ版と実写版が別物であるという前提を踏まえた上で、あえて両者の差異にフォーカス。ジブリ版はもちろん、原作コミックとの違いにも着目することで、実写版ならではのメッセージを明確にしてみようと思う。

メインで描かれるのは原作の「10年後」の物語

朝焼けの街を見下ろしながら、聖司が雫にプロポーズをする…。言わずと知れた、日本映画史に残るラストシーンである。実写版『耳をすませば』のチャレンジブルな改変の1つは、原作コミックのクライマックスでもあるこの名シーンを、トップシーンに持ってきたことである。

マジックアワーの美しい光を浴びて、将来を誓い合う雫と聖司。2人を映したカットに続くのは、大人になった雫(清野菜名)が、あの頃と変わらない光を浴びながら、ちょっぴり変わった街並みを見下ろす姿である。実写版の舞台となるのは伝説のラストシーンの10年後となる1998年の東京。物語の主役は、作家として成功する夢を追いつつ、児童書の編集者として忙しない日々を送る、大人になった月島雫である。

©︎柊あおい集英社©︎2022耳をすませば製作委員会

大人になった雫を中心に物語が進むとはいえ、原作やアニメで描かれた青春時代の名シーンも登場する。放課後の神社で雫が杉村から告白をうけるシーン、猫のムーンに導かれて「地球屋」に足を踏み入れるシーンをはじめ、原作やアニメファンのノスタルジーをかきたてる見せ場の数々は、大人になった雫の「回想」という形で描かれるのだ。

原作やアニメで描かれた雫の青春時代のエピソードにノスタルジーを喚起される観客と同じく、大人になった雫もまた、二度と戻ってこない青春の日々をいつくしむように懐古する。重要な点は、観客と主人公(大人になった雫)の両方が、“あの頃は戻ってこない”という感覚を共有する点である。“あの頃”とはもちろん、原作およびアニメ版で描かれた雫の青春時代である。

©︎柊あおい集英社©︎2022耳をすませば製作委員会

観客が直面せざるを得ない、実写版とオリジナル版の間にひろがる“距離感”と、大人になった雫が現在と過去の間にひろがる“距離感”をシンクロさせること。それによって観客は、物語の主人公である24歳の雫に感情移入しやすくなる。ちなみに、すでに広く知られた物語を再び語りなおす際に、未来の視点から回想するという手法は、ベストセラーを映画化した『世界の中心で愛をさけぶ』(2004)などでも採用されている。上記の点を踏まえることで、原作の10年後をメインストーリーにすえた実写版『耳をすませば』の作劇的な狙いが見えてくるのだ。

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