邦画界最強の“役者バカ”は? 壮絶な役作りに挑んだ日本人俳優(5)髪を抜いて…圧巻の名演で傑作を産んだ名優
自分以外の人間を演じる“俳優”。彼らは時に、我々には想像を絶する役作りをしている。人を感動させるためだけに作られる映画に、体の一部や生活を差し出してまで演じるということは、一体どういうことなのだろうか。そしてその映画は我々に何をもたらしてくれるのか。今回は、俳優が壮絶な役作りをした映画を5本セレクトして紹介する。(文・野原まりこ)
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髪を抜き、老いを強調することで孤独な殺人者を名演
堤真一『容疑者Xの献身』(2008)
原作:東野圭吾
監督:西谷弘
脚本:福田靖
出演:福山雅治、柴咲コウ、北村一輝、渡辺いっけい、品川祐、真矢みき、松雪泰子、堤真一
【作品内容】
東野圭吾の推理小説が原作の、テレビドラマ『ガリレオ』の劇場版第一弾。無残に殺された死体が発見され、新人女性刑事の内海(柴咲コウ)は先輩刑事と捜査に向かう。
いつものように天才物理学者・ガリレオこと湯川(福山雅治)に助けを求めるが、容疑者に上がった被害者の元妻の隣人である石神(堤真一)が、湯川の大学時代の友人であることが判明するのだが…。
【注目ポイント】
本作は「実に面白い」という決めゼリフと、福山雅治と柴咲コウのユニット「KOH⁺」の曲が大人気となった、フジテレビのドラマシリーズ『ガリレオ』の映画版である。
東野圭吾の原作では、堤が演じた犯人・石神という人物は「丸顔で髪が薄く、老け顔」という設定。しかし、堤真一といえば、キリッとした顔で、明るくてハツラツとしたイメージを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。
実際このキャスティングが発表された当時、原作の石神のイメージと堤のイメージがあまりにも違うことから、原作ファンの一部からブーイングが起こる事態に。
しかし、蓋を開けてみると、頭皮がすけて見えるほど髪の毛を抜いて役作りを行なった堤の芝居は、いつもの雰囲気を感じさせないばかりか、影のある表情と、同級生である湯川と対照的に老け込んだ様子を見事に体現し、本作を悲壮感ただようサスペンス映画の傑作に仕立て上げてみせた。
第32回日本アカデミー賞では、優秀助演男優賞を獲得。惜しくも『おくりびと』でベテラン納棺士を演じた山崎努に敗れ、最優秀賞は逃したものの、従来のイメージを刷新して難役をものにした堤の俳優としての評価は、さらに上がることになった。
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