史上最恐のゾンビ映画は…? 最もスリリングな名作5選。恐怖と笑いと爽快感が同時に味わえる…アイデアに優れた作品をセレクト
大ヒットした海外ドラマ『ウォーキング・デッド』をはじめ、日本でも多くのゾンビ映画・ドラマが製作されている。一口にゾンビ映画といっても、一つ一つ個性がある。国内・国外、時代など、作品によってゾンビの種類が異なり、倒し方、逃げ方が違うのが醍醐味だ。今回は、我々を様々な角度から恐怖に陥れるゾンビ映画を5本セレクトして紹介する(文・野原まりこ)
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ゾンビウイルスが収束した後の世界を描く
他にはない設定のゾンビ映画
『キュアード』(2018)
上映時間:95分
原題:The Cured
製作国:アイルランド、フランス
監督:デヴィッド・フレイン
脚本:デヴィッド・フレイン
出演:エリオット・ペイジ、サム・キーリー、トム・ヴォーン=ローラー、スチュアート・グレアム
【作品内容】
人間を凶暴化させるウイルスが世界を支配した6年後。ウイルスに対抗する新薬が開発され、元感染者は社会復帰するようになる。しかし回復した後も、ウイルスに侵され他人を襲ってしまった記憶が消えることはなかった。
青年・セナンもそんな回復者の一人だった。セナンは義姉・アビーの元に身を寄せるが、回復者への世間の風当たりは強く、理不尽な差別を受ける。回復者たちは、自分たちの状況に不満を抱き、社会へ報復するためのテロを企てる…。
【注目ポイント】
ゾンビ映画は、日常がたった数日で変わってしまう中、主人公がどう生き残っていくかの過程を描くものが多い。しかし、あらすじを見れば一目でおわかりいただけるだろうが、本作はありふれたゾンビ映画とは一味違う。
本作は、ゾンビ映画の醍醐味であるゾンビを倒しまくる描写は少ないものの、斬新な物語の設定によって観る者の目を惹きつける。
本作には、回復者は感染していた頃に人を襲ってしまった記憶がそのまま残っている。また、回復者はまだ治療が進んでいない感染者からは襲われないなど、従来のゾンビ映画には見られない細かい設定があり、それが新しさを感じさせ、アクションシーンがなくとも十分に楽しめる。
そしてゾンビvs人間という構図ではなく、人間(非感染者)vs人間(回復者)という対立に怖さを感じる。
もし、自分が非感染者だった場合、過去に人間を襲った回復者が社会に出てくることに恐怖を感じるだろう。しかし自分が回復者だった場合、ウイルスは不可抗力であり、人を襲いたくて襲ったわけでもないのに、理不尽に差別を受けることに耐えられなくなりそうだ。
本作が日本で公開された2020年、世界では新型コロナウイルスが猛威を振るっていた。先の見えない不安と未知のウイルスにより、人々は混乱の渦中だった。それから数年経ち、ワクチンが開発されると、徐々にノーマスクでも外出ができるようになった。
だが、電車内で少しでも咳をしようものなら、周囲から一気に冷たい視線を向けられ、気まずい思いをしたことはないだろうか。そうした気持ちは本作が描くギスギスしたムードと一直線につながっている。本作が描いている問題は、コロナ禍を経験した今、より身近さを増している。その点、フィクション度の高い映画ではあるものの、日常的な怖さを味わえる作品でもある。