邦画史上最怖のサイコパスは? 人の怖さを描く傑作日本映画(5)抜群の演技力…洗脳に引きずり込む恐怖の男
連日報道される一線を超えてしまった人たちのニュース。金銭トラブルや殺人事件など、多くの人はそうした出来事とは無縁な生活を送っているのではないだろうか。しかし関わってはいけない人間は、確実に存在する。今回は、身近な恐怖が味わえる、人間の怖さを描いた日本の“ヒトコワ映画”を5本セレクトして紹介する。(文・市川ノン)
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洗脳されていく怖さ
絶え間なく続く不穏な空気感に恐怖する
『CURE』(1997)
監督:黒沢清
脚本:黒沢清
出演者:役所広司、萩原聖人、でんでん、洞口依子、大杉漣、うじきつよし
【作品内容】
刑事の高部(役所広司)は、娼婦惨殺の現場に駆けつける。被害者の胸はX字に切り裂かれていた。その後も、同様の遺体が見つかるが、犯人はすべて別人。しかし、事件を追っていくと記憶障害を持つ奇妙な男・間宮(萩原聖人)が、殺人教唆していることが明らかになる。
間宮を捕まえた警察だが、彼の不思議な言動に翻弄されるていく。そして、高部も徐々に彼の影響を受け始め……。黒沢清の名を世界的に知らしめた日本のサイコ・サスペンスの傑作。
【注目ポイント】
間宮は元医大学生で、催眠療法の研究をしていた。彼は不思議な話術やライターの火、滴る水などを利用し、殺人を教唆する能力を手にしている。みずからの名前も過去もわからず、記憶障害になっている彼の佇まいは不穏で、会話も噛み合わず、誰もがその言動に苛立ちを隠せない。
しかし、一度引き込まれた者は魔が差したように人を、時には自分を死に追いやってしまう。間宮演ずる萩原聖人の演技力は抜群で、観客でさえ彼の術中に引きずり込まれてしまいそうになるほどだ。
その恐怖もさることながら、本作はさらに本質的な恐怖を提示しているのだろう。
本題の「CURE」は「治療」「治す」などの意味を持つ。
誰もが抑圧している感情、コンプレックスを解放させることが、間宮において、ともすれば人類にとっての治療なのかもしれない。とはいえ、現実の秩序はそうした各人による絶え間ない抑圧によって維持されている。
間宮が駆使するような“治療”がひとたび放たれれば、想像を絶する世界になるのは自明だ。黒沢清は我々の日常の秩序を揺らがせる恐怖を、本作で見せつけるのだ。
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