大傑作! 日本最高のボクシング映画は? 心揺さぶる日本映画(5)凄まじい群像劇…北野武の残酷でリアルな名作
血や汗や情熱やロマンが入り混じる、泥臭くも美しいスポーツ、ボクシング。そんなボクシングを題材にした映画は、日本国内で今も昔も製作され続けており、有名監督や人気俳優、実力派女優らも多く関わっている。故障や病、障害、栄光と挫折などを描き、観る者の心を揺さぶる史上最高のボクシング映画を、今回は邦画に絞って5本セレクトした。
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北野武が手掛けた残酷な青春群像劇
『キッズ・リターン』(1996)
上映時間:108分
監督・脚本:北野武
キャスト:金子賢、安藤政信、森本レオ、石橋凌、丘みつ子、柏谷享助、山谷初男、モロ師岡、大家由祐子
【作品内容】
高校の同級生であるシンジ(安藤政信)とマサル(金子賢)は、授業もまともに受けずにカツアゲをしたり、タバコや飲酒をしたりとやりたい放題の毎日を過ごしていた。
ある日、カツアゲした相手の仲間からマサルは仕返しを受ける。その相手がボクシングの経験者だったことから、ボクシングを始めるマサル。シンジもマサルから誘われてボクシングを始める。2人はスパーリングをするが、シンジがマサルに勝ってしまう。ボクシングの才能があったのはシンジの方だった…。
【注目ポイント】
北野武監督6作目となる本作。『その男、凶暴につき』(1989)で映画監督デビューを果たし、『ソナチネ』(1993)ではカンヌ国際映画祭「ある視点」部門やロンドン映画祭に招待され、海外でも高い評価を得たことで、その地位を確固たるものとしつつあった。
しかし1994年、飲酒運転の末、バイク事故を起こし、頭蓋骨陥没骨折などの重傷を負う。普通なら即死レベルの事故で、運よく一命は取り留めたものの、退院後の記者会見には顔面が麻痺した状態で姿を表せ、ジョークも交えて受け答えしていたものの、その痛々しい様子は、世間に衝撃を与えた。
本作は、大事故によって、生死の境をさまよった北野の“復帰作”でもある。
北野作品といえば、その過激な暴力描写や、“キタノブルー”と呼ばれる独特の色彩が特徴でもあるが、本作では、個性的な映像表現は抑制され、複数の登場人物の栄光と挫折を鮮烈かつ残酷に描いた青春群像劇だ。
ボクシングを通じて、その運命を変えることになる2人の青年のその後を追うことで、それまで何の縛りもなく自由に過ごしていた青春時代と、複雑で理不尽な大人の世界との対比が描かれている。
また、主役のマサルとシンジだけではなく、脇にいる人物の栄光と挫折にも鋭くフォーカスが当てられており、観る者はそのバックグラウンドを想像せずにいられない。味のある人物描写も見事な作品だ。
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