日本人女優の過酷な役作りとは…壮絶演技が生んだ傑作日本映画(1)驚異の根性…その凄まじい芝居の結末は?
スポットライトを浴び、多くの人の視線を釘付けにする女優。他とは生まれ持った才能が違う…。側から見ればそんな風に見えないだろうか。しかし女優という仕事は綺麗なだけでは務まらない。彼女たちはこちら側に見せる面の裏で、我々には計り知れない凄まじい努力をしている。そこで今回は、壮絶な役づくりをした女優を5人紹介する。(文・野原まりこ)
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1日8時間の猛特訓の末に
短期間でピアノ&英語を習得
吉田羊『ハナレイ・ベイ』(2018)
原作:村上春樹
監督:松永大司
脚本:松永大司
出演:吉田羊、佐野玲於、村上虹郎、佐藤魁、栗原類、Cy Kalama、Leilani Kahoano、Adam Kenner、Tatsuya Nishizaki
【作品内容】
ピアノバーのオーナーを勤めるシングルマザーのサチ(吉田羊)は、息子のタカシ(佐野玲於)がハワイのハナレイ・ベイで、サーフィン中に鮫に足を喰われて亡くなったという知らせを電話で受ける。
それから10年間、サチはタカシの命日になるとハナレイ・ベイを訪れるのであった。
そんな中、サチは2人の若い日本人のサーファー、高橋(村上虹郎)と三宅(佐藤魁)に出会い、「赤いサーフボードを持った片脚がない日本人がいる」という話を聞く。
【注目ポイント】
作家・村上春樹と、松永監督のファンであったという吉田。本作への出演オファーを二つ返事で了承したものの、その重荷はとてつもないものだった。
本作での吉田は、ピアノバーのオーナーで、英語が話せるシングルマザーという役所。そのため、クランクインの1ヶ月前からピアノと英語の練習を始めたものの、舞台の本番期間と重なってしまった。
しかし多忙なスケジュールにも関わらず、1日8時間も練習に費やしていたという。
さらに、クランクインの前からサチになりきるため、息子の命日になると毎年ハワイへ赴き海岸で過ごすという設定に則り、マネージャーを同行させずに1人でハワイに向かった。
だが、吉田がここまでしても監督が納得するとは限らない。
1つの妥協も許さない松永監督は、撮影初日から納得がいかないと吉田の芝居にさらなる高みを求め、吉田は「この作品が終わったら女優をやめよう」と思うほど追い込まれていったというエピソードが残っている。
本作は村上春樹作品を原作にしていることも相まって、セリフのないところでも、表情や雰囲気で情感を出さないといけないシーンがある。現に、本作にはあまり大きな起伏がなく、観る者の読み取り力が必要な映画でもある。
サチは、生きている時にどう接していいのかわからない息子が亡くなり、ますます自分の感情の置き所に悩み、苦しみ、1人でハワイを訪れては海を眺める。
そこを深掘りせず“悲しんでいる風”にしまっては、受け手側は何も感じることはできない。だからこそ監督は一切の妥協を許さず、吉田を追い込み、最大限の力を引き出そうとしたのではないだろうか。
結果として、吉田の努力は実った。セリフや感情を見事に自分のモノにし、深みのある芝居で、映画の格調を引き上げることに成功している。
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