「リリー・フランキーの弟子」画家・BABIが愛する“セリフとラストが熱い”映画(5)「ここまで狂ったら最高!」
各界で活躍する著名人に「人生に影響を与えた映画」をセレクトしてもらい、その魅力を語ってもらうインタビュー企画。今回登場するのは、「リリー・フランキー『スナック ラジオ』」(TOKYO FM、毎週土曜16:00~16:55)に出演する画家・BABIだ。リリー・フランキーの弟子である彼女が選ぶ5選は?(取材・文:司馬 宙)
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“Say hello to my little friend ! ”
頂点に上り詰めた者の苦悩を描いた狂騒曲
『スカーフェイス』(1983年)
ーーー最後の作品は、アル・パチーノが残酷なマフィアを演じる『スカーフェイス』ですね。これも子どものときにご覧になったんですか?
「そうですね。ただ、子どものときは正直ただのギャング映画っていう印象で、あんまりピンと来てなかった。でも、『アメリカン・ヒストリーX』もそうですけど、大人になってくるにつれて、人生って大体アレだなって思ってきちゃったんですよ(笑)」
ーーー人生はアレですか(笑)
「そう(笑)。人間って、誰しも向上心を持ってるじゃないですか。でも、上り詰めていくにつれて、次第に脚を引っ張るような人も出てきたり、嫉妬に狂って友達を裏切っちゃったりっていうことが起こるんですよね」
ーーー確かに『スカーフェイス』は、ヒップホップ界隈で人気な印象があって、主人公の名前(トニー・モンタナ)をリリックに組みこむラッパーも多いですよね。例えば、ケンドリック・ラマーの有名な曲に、『Bitch, Don’t Kill My Vibe』という曲がありますが、これも頂点に立ったケンドリックを引きずり降ろそうとする人たちを歌った曲です。
「そうなんですよ。ただ、ケンドリックに限らず、上り詰める途中が一番幸せで、全てを得た後は狂うしかない。
で、『スカーフェイス』の場合は、頂点に上り詰めたトニー・モンタナが最後に自分の豪邸にやってきた敵に向かって銃をぶっ放すじゃないですか。この時、トニーが「Say hello to my little friend ! (俺の小さなダチに挨拶しな! )」って言うんですよ(笑)。
ーーー狂ってますね(笑)。
「もう、本っ当に狂ってる(笑)。でも、ここまで狂ったら最高! みたいな(笑)。
ーーー映画作品としてではなく人生哲学として『スカーフェイス』を観るのはとても興味深いですね。ちなみにBABIさんご自身は、精神衛生を保つために心掛けていることはありますか?
「保てないときは諦めてますね。特に女性なんて、ホルモンバランスで1か月に4回くらい性格変わっちゃうから、ムカついたとしても仕方がないというか、受け入れていくしかないですね。
だから、私の場合は、人生は悪いことしかなくて、良いことが起きたらラッキーくらいに思って生きています」
ーーー逆に言えば、『スカーフェイス』は、精神的に不安定な状態を肯定してくれる作品なのかもしれないですね。
「やっぱりみんな生きていればいろいろあるじゃないですか。もちろん穏やかに生きるのが一番いいんですけど、もがいてもできない時もある。
だから、この作品は、そういった人間の「もがき」を表現した作品なのかなと思っています」
ーーー反対に、BABIさんが穏やかに暮らせる環境はありますか?
「フランスですね。私、子どもの頃にフランスに15歳から20歳まで住んでいたんですけど、フランス人は日本人に比べてあまり他人に干渉してこないので、すごく穏やかな気持ちでいられます。
今も年に数回パリに行くんですけど、パリって渋谷区と世田谷区を合わせたくらいの面積なのにものすごく貧富の差が激しいんですね。だから、スリにあっても、「ボケッとしてるテメエが悪いでしょ」みたいな感じで、被害者意識を引きずらないのでラクなんですよね」
ーーー「ボケッと生きること」への危機感は、『ブラッド・ダイヤモンド』や『スカーフェイス』にも通底しますね。
「確かに(笑)。紹介した映画はかなり大きいスケールでの出来事ですけど、小さいスケールのことは日常でも起きていますよね」
ーーーちなみに、海外に行くのと映画を見に行くのは、非日常を体験するという意味では似ているんでしょうか。
「そうですね。やっぱりこの世に生まれたら、いろいろなものを見たいじゃないですか。で、例えばフランスに行くと、フランス人の気質からヨーロッパの戦争の歴史を肌で感じることができるし、アメリカに行くと、何かが生まれる予感を感じることができる。
映画も一緒なんですよね。『ブラッド・ダイヤモンド』も『アメリカン・ヒストリーX』も『スカーフェイス』も、私の知らない世界を描いている。で、知らない世界に触れるからこそ、そこに感動が生まれる。私にとって映画は、知らない世界との出会いを通して、人の心を動かす芸術だと思っています」
(取材・文:司馬 宙)
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