巨額赤字で大爆死! 史上最低の大コケ日本映画(3)素人監督で大混乱…50億円の大金をドブに捨てた超駄作
名作と呼ばれる映画は、人々の心に刻まれ、愛され続ける。映画を製作した者にとってはこの上ない喜びであり、目指すところでもある。だが、映画も商売であり、興行収入が製作費を上回らない限り、その映画は“失敗作”になってしまう。今回は「製作費◯◯万円!」と銘打ったものの、大爆死…。今回は、そんな残念な日本映画を紹介したい。今回は第3回。(文・寺島武志)
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カオスなキャスティング…。
製作会社を窮地に追い込んだ問題作
『落陽』 (1992)
製作国:日本
監督・原作:伴野朗
脚本:藤浦敦、根本哲史
総合プロデューサー・総監修:藤浦敦
キャスト:加藤雅也、ダイアン・レイン、ユン・ピョウ、ドナルド・サザーランド、中村梅之助、伴野朗
【作品内容】
関東軍の元将校賀屋達馬(加藤雅也)は、石原完爾中佐から満州国建設のため、関東軍の戦費を極秘に調達するよう命令された。奉天第一銀行が発行する1億元の現大洋票を奪取するも、部下の裏切りにあい、命を落としそうになる。
しかしかつての恋人、馬賊の女頭目で中国人の歌姫・張蓮紅(ダイアン・レイン)との出会いにより、窮地を救われる。運命の出会いを果たした2人だったが、賀屋はさらなる資金調達のための阿片の密売、太平洋戦争に巻き込まれていく…。
【注目ポイント】
にっかつ80周年記念作品として製作され、50億円もの製作費が投じられた同作。加藤雅也を主演に据え、ダイアン・レイン、ユン・ピョウ、ドナルド・サザーランドといった海外のビッグネームに加え、歌舞伎役者の四代目中村梅之助と長男の二代目中村梅雀、前進座の松浦豊和と嵐圭史と五代目中村鶴蔵、新国劇の島田正吾、元宝塚歌劇団の汀夏子、歌手のにしきのあきら、モデルの小牧ユカ、桐島かれん、SM小説家の団鬼六に、お笑いの世界からは立川談志、鈴々舎馬風、星セント・ルイスの星セント、手品師の松旭斎ちどり、果ては、映画評論家の水野晴郎とその弟子の西田和昭も出演している。
もちろん俳優を本業としている田村高廣や芦田伸介、金田龍之介、尾藤イサオ、新藤栄作、室田日出男など多くのキャストが出演しているが、キャスティング一つ取っても“カオス”と言わざるを得ない。
元関東軍大尉の賀屋達馬(加藤雅也)が、満州事変から終戦までを中国で生き抜いた男を演じ、その壮絶な半生を、中国ロケによる大スケールで描いているのだが、メガホンを取ったのは、原作者の作家・伴野朗、要は映画の素人だ。
当然の帰結というべきであるが、そんな監督がコントロールできるはずもなく、キャスト全員が好き勝手に芝居をしている。それぞれが自分のテンポで演技をしているがゆえに、登場人物の芝居は、いまいち噛み合っていない。また、全編を通して、日本語、中国語、英語が飛び交うなど、セリフ表現も混迷を極めている。
興行収入は約5億円といわれ、大赤字であったことに加え、翌1993年に「株式会社にっかつ」は会社更生法の適用を申請し、事実上倒産したことで、その原因を作った超駄作というレッテルを貼られ、脚本と総合プロデューサーを務めた藤浦敦は映画界から追われることになる。
しかしながら実際のところ、当時のにっかつの経営は、頼みの綱だったロマンポルノもアダルトビデオの隆盛により廃れつつあり、既に火の車だった。同作は、全てにおいて無謀ともいえる作品であるが、にっかつの“最期の大花火”として人々の記憶に残る映画となった。
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