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「恩返しするには映画を撮るしかない」映画『女優は泣かない』有働佳史監督インタビュー。蓮佛美沙子& 伊藤万理華共演の話題作

text by 山田剛志

崖っぷちの女優と若手ディレクターが再起をかける映画『女優は泣かない』が12月1日(金)より公開される。今回は、本作で監督・脚本を務めた有働佳史さんのインタビューをお届け。コロナ禍で一度撮影が中断されたという製作時のエピソードから、細部の演出、そして監督の地元でもある撮影地・熊本県荒尾市への想いなど幅広くお話を伺った。(取材・文:山田剛志)

「自分がこの映画のことを最前線でずっと考えなきゃいけない」
イレギュラーな撮影で思い知った女優・蓮佛美沙子の凄さ

©2023「女優は泣かない」製作委員会
©2023女優は泣かない製作委員会

―――本作は、2021年の8月に一度クランクインし、コロナの影響で2日目にして撮影が一時ストップ。1年3か月後に再クランクインされたとのことですね。中断から再クランクインまでの間、どのようなお気持ちで過ごされていましたか?

「正直、生きた心地しなかったです。とはいえ、スタッフやキャストに弱気なところを見せてはいけないと思い、全てのキャストとマネージャーさん、それとスタッフに『絶対再開させます』って宣言しました。

実のところ、僕自身、『もう無理かな』って思っていた時もありました。でも、ここで自分が弱気なことを言ったら、みんな、付いて来たくても来れなくなってしまう。

なので、何の根拠もなかったけど、メールで『絶対再開させるから、一ミリも心折れていません』って言い張るしかなくて。当時は、そう言うことで自分を奮い立たせていたんです」

―――再びクランクインするまでの間、この映画のことをずっと考えていらっしゃったのでしょうか?

「そうですね。誰よりも自分がこの映画のことを最前線でずっと考えていなければダメだろうと。それでシナリオを基にした小説を書いたんですよ。小説化する作業は、この映画を理解し直す格好の機会になりました。ちなみに小説版には、映画では描けなかったエピソードも入っています」

―――1年3か月に渡る空白期間を逆手にとって、映画への理解を深める期間に変えられたのですね。

「再クランクインして、もう一度、キャストやスタッフの皆さんを作品の世界に引き込むためには、監督である僕が『あれ、このシーンどんな感じでしたっけ?』ってなっちゃうのは良くないですからね。

脚本には基本、心理描写を書き込まないのですが、小説にするとなると、そういう部分も言葉にしなきゃいけません。その過程で『この時、梨枝はこんなこと思っているのか』みたいな新発見もありました。とはいえ、もちろん、中断を挟んだことで犠牲にしたことも沢山あるので、必ずしも全部良い結果に転んだとは思っていません」

―――役者さんからしても、一度役に入り込んだものの長い中断期間を挟んで、また同じ役に臨むというのはイレギュラーですよね。

「イレギュラーですし、とても大変だったと思います。実は再クランクイン後に最初に撮ったシーンは、クライマックスの病室の場面なんです。1年3か月空いて、クライマックスのシーンから撮影を再開するというのは、役者さんにとって相当大変なことです」

―――複数の感情が入り乱れる、とても見応えのあるシーンでしたが、まさかそんな裏話があったとは思いも寄りませんでした。

「これは蓮佛さんのインタビューで知ったのですが、実は最初にクランクインした時、あのシーンをどう演じていいのか分かっていなかったそうなんです。でも中断期間中に、彼女は凄く台本を読み込んで下さいまして。

再開してこのシーンをやるってなった時には、『こうやればいいんだ』っていう確固としたプランがあって、結果、クライマックスから演じたことによって、『逆算で芝居が作れたから良かった』といったことを仰っていました。

彼女はとにかく台本を咀嚼する能力が高くて、中断している間、なんなら僕以上に脚本の理解を深めて、撮影に臨んでくれました」

―――凄いですね…。

「蓮佛さんは僕と同じくらい強い気持ちで映画に取り組んでくださいました。そのインタビューでは、中断している間も『再開したら絶対やりたいと思っていた』と仰って下さっていて。改めてその話を聞いて、すごく嬉しかったですね」

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