アリ・アスター監督が『ミッドサマー』について語る! 映画『ボーはおそれている』 特別上映イベントレポート到着
「僕がひとりぼっちなら、みんなもそうでなきゃ(笑)」!? 『ジョーカー』のホアキン・フェニックス主演、アリ・アスター監督の最新作映画『ボーはおそれている』が、2024年2月16日(金)より公開される。この度、同作の日本公開を記念し、アリ・アスター監督による『ミッドサマー』のQ&A付き特別上映が実施された。
『ミッドサマー』にまつわる「カップル破局映画」としての伝説とは?
日本でスマッシュヒットを記録した『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の最新作映画『ボーはおそれている』。
主演は、本作でゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされ、『ジョーカー』でアカデミー賞®主演男優賞を受賞。『ナポレオン』も全世界でオープニング興収1位を記録したホアキン・フェニックスが務め話題になっている本作。
この度、本作の日本公開を記念し、アリ・アスター監督の前作で、未だ日本でも根強いファンを持つ『ミッドサマー』のQ &A付き特別上映を実施した。
アメリカからやってきた5人の大学生たちが訪れたスウェーデンの奥地で行われる<90年に1度の祝祭に参加>。沈まない白夜の太陽、咲き誇る美しい花々と優しい人々に囲まれた彼らは一見幸福な場にやってきたかのように思えたが、それらはすべて、悪夢の始まりへの序章だったー。
圧倒的な明度の高さ、類を見ない美しいビジュアルを持つホラー映画に、日本でも中毒者が続出!唯一無二の作品として熱狂的なファンを持つ『ミッドサマー』。
アリ・アスター監督は、主人公ダニーのように、草花の王冠をつけたコスプレ姿や、既に複数回『ミッドサマー』を観たという観客も多数いる中、本作を観終えたばかりの満員の観客の温かい拍手に迎えられ、満面の笑みを浮かべて登壇。
『ミッドサマー』公開時のプロモーション以来、3年ぶりの来日となったアリ・アスター監督。
「『ミッドサマー』で初めて日本を訪れた時は『アメリカに帰りたくない!』と思ったくらいで、本当に日本のことが深く心に残っていました。こうして『ボーはおそれている』という新作を携えて戻ってこられて嬉しいです」と感慨深そうに語り、北米を除いた『ミッドサマー』の興行収入で世界No.1をたたき出した日本について、監督は「僕は日本映画、日本の文学や芸術が大好きなので、そのような大きな反響をいただけて本当に嬉しいですし、励まされます」と喜びと感謝を口にする。
観客とのQ&Aで、最初に質問をしたのは、既に『ミッドサマー』を20回以上鑑賞しているという熱烈なファン。
同作によって「人生が変わりました」と監督への感謝を述べ、「(物語が終わった)この後、ダニーはどうなっていくんでしょうか?」と問いかけ、監督は「(ダニーが訪れるホルガ村の死生観、ルールに則り)72歳までは幸せに生きられるんじゃないかと思います」とユーモアたっぷりに答え、会場は笑いと拍手に包まれる。
続いて、手を挙げたのは、京都から駆けつけたという女性で、監督との対面に感激のあまり涙を流しながら「大好きです!」と思いを伝え、「監督の一番のお気に入りのシーン」を尋ねた。
すると、アスター監督はまず「京都は大好きで、今回も4日間ほど滞在しました」と微笑みかけ、お気に入りのシーンについては「女性たちがダニーを囲んでわんわん泣いているシーンのみなさんのお芝居が好きです。現場で監督としてあのシーンを目撃して、まるで魔法のような瞬間だったことを覚えています」と振り返った。
続いて「(長編第1作の)『ヘレディタリー/継承』は、ある意味で観客は、監督との“共犯関係”にあるような悪魔的な立ち位置に置かれていましたが、この『ミッドサマー』では、監督は観客をどういう立ち位置に置き、どういう視点で観てもらいたいと考えたのか?」という質問が。
アリ・アスター監督は少し考えた後「『ミッドサマー』では、観客のみなさんの視点はやはりダニーになるように設計しています。どんな作品であれ、どうしても監督の視点で撮るので、観客も監督の視点で観ることは避けられませんが、この作品に関して言うとダニーに共感するようにつくられています。とはいえ、そう言いつつも、多少の客観性があり、どちらかと言うと、“神の視点”的な主観性を帯びている作品であると言えます。ダニーはやはり、一番面白い登場人物であり、複雑な経緯を持っています。家族を失い、彼氏はダメダメで、この彼氏に頼れないので、代わりにすがる“何か”を求めて、さまようわけですが、その“何か”を手に入れるけれど、『あれ? なんかちょっと違う…』というものを手に入れてしまうわけです」
「この映画のエンディングをみなさんがどう受け取るか? 僕はロールシャッハテストのようなものとして作ったつもりです。これをハッピーエンドと受け止めるか? そうではないのか? という問いを。投げかけています。カタルシスのあるラストシーンですけど、みなさんの見方次第で受け止め方は分かれると思います。その線引きをなるべく曖昧に描いたつもりです」と意図を明かした。
また、これまでの監督作品において、必ずと言っていいほど刺繍が登場する点について、その意図や理由を尋ねられると、監督は「僕自身もイマイチわからないんですが、登場人物たちに何がしかのアートピース(小物)を通して表現する機会を設けようといているのかもしれません。そういえば新作『ボーはおそれている』もそうですし、春先から撮る予定の新作にも刺繍が登場します。おそらく、僕自身のバックグラウンドが影響しているんだと思います。僕の母はビジュアル・アーティストであり詩人でもあり、父はミュージシャンで、僕もスケッチするのが好きです。それもあって、登場人物たちは芸術行為を通じて自己表現をするようになっているのかもしれません」と分析した。
また、監督自身の失恋経験が、この映画を作るきっかけになったことをこれまで様々な取材などで明かしているが、実際この映画を恋人同士で鑑賞した後、別れるカップルが数多くいたとも言われている。
こうした現象について「そうなることを予期していたんですか? 自分が失恋したから、他のカップルに対しても『別れちゃえ!』という思いがあったんですか?」という直球の質問に、監督は「Yes. Sure!(=もちろん!) 僕がひとりぼっちなら、みんなもそうでなきゃ」と即答、会場は爆笑に包まれ、大きな拍手がわき起こった。
最後にアリ・アスター監督は改めて、劇場に足を運んだ熱烈なファンに向けて「公開から数年を経てもこうして手厚いサポートをいただけることを嬉しく思っていますし、そんなみなさんとこうして一緒に過ごせたことは美しい体験となりました。日本は芸術やアーティストへのリスペクトを持った国であり、そこでみなさんに映画を観ていただけることは本当に幸せです。最新作の『ボーはおそれている』もぜひ劇場で観ていただければと思いますし、気に入っていただけると嬉しいです」と呼びかけ、Q&Aセッションは幕を閉じた。
【イベント概要】
日程:12月19日(火)21:10-21:40
会場:TOHOシネマズ日比谷 スクリーン12(千代田区有楽町1-1-3 東京宝塚ビル B1)
登壇者:アリ・アスター監督