現代映画の最前線…ケリー・ライカート作品における “熱”の重要性とは? A24『ショーイング・アップ』徹底考察&レビュー
名だたるインディペンデント映画の傑作を世に送り出してきたアメリカの映画製作/配給会社A24。現在U-NEXTでは「A24の知られざる映画たち」特集が配信中だ。今回は、現代のアメリカを代表する映画作家の一人、ケリー・ライカートの最新作『ショーイング・アップ』のレビューをお届けする。(文・冨塚亮平)<あらすじ キャスト 考察 解説 評価 レビュー>
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【著者プロフィール】
アメリカ文学/文化研究。神奈川大学外国語学部助教。ユリイカ、キネマ旬報、図書新聞、新潮、精神看護、ジャーロ、フィルカル、三田評論、「ケリー・ライカートの映画たち漂流のアメリカ」プログラムなどに寄稿。近著に共編著『ドライブ・マイ・カー』論』(慶應大学出版会)、共著『アメリカ文学と大統領 文学史と文化史』(南雲堂)、『ダルデンヌ兄弟 社会をまなざす映画作家』(neoneo編集室)。
現代映画の最前線ケリー・ライカート。新たな挑戦に溢れた一本
日本では奇しくも前作『ファースト・カウ』(2020)と同日公開となった、ケリー・ライカートの通算八本目となる長編監督作『ショーイング・アップ』(2022)は、常連組を多数起用しつつも新たな挑戦に溢れた一本だ。
ライカートとは『ウェンディ・アンド・ルーシー』(2008)に主演して以来通算四度目のコラボレーションとなるミシェル・ウィリアムズ演じる主人公の彫刻家リジーは、静かな地下室で週末から開催される個展の準備に追われている。かつてのライカート自身のようにアート活動だけでは生活できない彼女は、近所のカレッジで事務員として働くことで生計を立てているが、母親の部下として事務仕事に忙殺され、問題含みの兄や父といった家族や飼い猫のケアにも注意を奪われる生活のなかで、なかなか創作に自由な時間を割くことができない。
ライカートは、衣装デザインを担当したエイプリル・ネイピアやウィリアムズと話し合い、ベージュを中心とする飾り気のないリジーのワードロープを構想したという。常に地味な色の服を身にまとい、化粧気がなく、表情にも乏しい彼女の姿は、表情も色彩も豊かな彼女の彫刻たちと明白なコントラストを成している。※1
一方、リジーの隣人で彼女が住む部屋の大家でもあるジョー(ホン・チャウ)は、同じアーティストでありながら多くの面でリジーとは対照的な存在である。娘思いの家族のおかげで不動産経営を引き継いだ彼女は、金策を気にせずに制作に没頭できる。また、良く言えば細かいことを気にしないおおらかさを持った、悪く言えばがさつな彼女は、その個性ともどこか響き合うように、リジーとは異なり広々とした空間を用いたインスタレーション作品を得意としており、大音量で音楽をかけながら、露出の多い派手な服装で全身を使って制作を行う。
リジーよりも多い二つの個展の準備で忙しいからと、彼女からのお湯が出ないという苦情をのらりくらりとかわし続けるジョーは、自分のオープニングが無事終了すると、準備が佳境を迎えた隣に住むリジーのことは気にせず、自宅で大音量の音楽をかけながらパーティを主催する。