海外で改悪、酷評されたジブリ映画は? 宮崎駿ブチギレ…世界進出で苦汁をなめた作品5選。不遇な扱いを受けたアニメをセレクト
宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』が世界で賞賛を受けている。今なお世界中で多くの人に愛されるスタジオジブリ作品。しかし、中には酷評を喰らった作品や、内容そのものを大幅に改変されてしまった作品も存在する。今回は、海外で不遇の扱いを受けてしまったジブリ映画を5本セレクトして紹介する。(文・寺島武志)
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上映時間を大幅に短縮…。世界観の改変も
『風の谷のナウシカ』(1984)
上映時間:116分
監督・原作・脚本:宮崎駿
プロデューサー:高畑勲
洋題:『Warriors of The Wind』
【作品内容】
舞台は、世界最終戦争「火の七日間」によって、文明が滅びた1000年後の地球。
人類の姿が消え、荒廃した大地は、「腐海」という有毒なガスを発する菌類の森に姿を変えていた。地球の覇権は「腐海」に住む巨大な昆虫「蟲 (むし)」が握っており、わずかに生き延びた人類は「蟲」の脅威のもと、苦しい生活を強いられていた…。
海から吹く風によって腐海の瘴気から守られている小国「風の谷」に、蟲に襲われた輸送飛行船が墜落する。船内には、「火の七日間」で地球を壊滅させた「巨神兵」の核が積まれていた。
この事件をきっかけに、大国間で巨神兵をめぐる闘争が勃発。風の谷の王女ナウシカも陰謀渦巻く戦乱に巻き込まれる-。
【注目ポイント】
本作は、1985年に設立された「株式会社スタジオジブリ」の前身である「株式会社トップクラフト」と徳間書店、博報堂による製作委員会方式にて製作された作品だ。トップクラフトの設立者・原徹は、宮崎駿や高畑勲と旧知の仲だったことから白羽の矢が立った。
ところが、本作が大ヒットしたことで思わぬ難題を抱えることになる。権利関係が複雑になったことで、海外上映やリメイクにあたって、そのノウハウを有していなかったのだ。
本作公開当時、スタジオジブリは海外への配給権について重要視していなかった。宮崎駿の作品作りはあくまで日本人向けであることに起因しているが、ジブリ作品の名声が世界に広まるに連れ、海外配給権売買ビジネスを迫られることになる。
ジブリ側は、本作の米国配給権を「ニューワールド・ピクチャーズ」なる会社に売却するのだが、同社はナウシカの世界観をぶち壊すだけではなく、主人公のナウシカを「ザンドラ姫」なるキャラクターに改悪。
宮崎駿が創り上げた物語や設定を理解するのに重要なシーンを次々と削り取り、本来116分の作品が97分に短縮された。加えて、ナウシカの改悪版『Warriors of The Wind(風の戦士たち)』は、欧州市場に2次輸出されてしまう。
鈴木敏夫はここでクレームをつけたら、海外で発売されなくなることを懸念し、上記の内容を宮崎に「あえて伝えない」という選択をとる。しかし、宮崎は後に事実を知り、激怒したという。
危機感を持ったジブリは権利の買い戻しに動く。それに尽力したのが、スタジオジブリの海外事業部に所属し、『風立ちぬ』(2013)で声優も務めたスティーブン・アルパートだった。
アルパートがジブリを退社される際、宮崎駿監督から「ナウシカを取り戻してくれてありがとう」という色紙が贈られたというエピソードが残されている。