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なぜ全米で大ヒット? 映画『オッペンハイマー』の“正しい鑑賞法”とは? 考察&評価。クリストファー・ノーランの演出を解説

第96回アカデミー賞で作品賞を含む7冠を達成したクリストファー・ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』が公開中だ。記録的な大ヒットとなった本作は、なぜアメリカでこんなにも受け入れられたのか。今回は、文筆家の長谷川町蔵さんによるレビューをお届けする。(文:長谷川町蔵)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】

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【著者プロフィール:長谷川町蔵】

東京都町田市出身。映画や音楽を中心として色々なものについて文章を書いている文筆家。主な著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(山崎まどかとの共著、DU BOOKS)、「文化系のためのヒップホップ入門1〜3」(大和田俊之との共著、アルテス・パブリッシング)など。

クリストファー・ノーランってそもそもシリアスな映画作家なのだろうか?

© Universal Pictures. All Rights Reserved.
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 原子爆弾の被害の恐ろしさをスルーしている。いや、主人公の幻視を通してしっかり描いている。はたまた実際に被爆した市民が惨状を自ら再現してみせた『ひろしま』(1953)を知ってか知らずか、「そもそも日本で返答となりうる決定版的な映画がないのがいけない」なんて主張も。

 クリストファー・ノーランの『オッペンハイマー』について、あちこちで議論が交わされている今日この頃である。『パール・ハーバー』(2001)が公開時にほとんど騒がれなかったのとは随分な違いだ。

 日本軍のハワイ真珠湾攻撃を描いた『パール・ハーバー』は、あまりに史実を無視していたため、本国では批評家が軒並み低評価、興行収入も伸び悩み、最低映画の殿堂ゴールデン・ラズベリー賞にノミネートされるような作品だった。しかし日本では感動のラブストーリーとして宣伝されて大ヒットを記録したのだ。

 『パール・ハーバー』の監督マイケル・ベイが単なる娯楽監督とみなされているのに対して、ノーランがシリアスな映画作家と捉えられていることが、この違いをもたらした気がする。でもクリストファー・ノーランってそもそもシリアスな映画作家なのだろうか?

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