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日本映画史に残る俳優降板トラブル…悪夢を見たワケあり邦画(4)日本を揺るがす大喧嘩…名優と巨匠の歴史的事件

text by 寺島武志

病気や怪我、はたまた役者の突然の芸能界引退…。スケジュールの厳しい撮影期間中、役者の急な降板トラブルは意外と多い。しかしそのピンチを、代役の俳優が思わぬファインプレーで作品を成功に導くことも。今回は邦画から代役を見事にこなした作品を5本セレクト。降板理由を交えて紹介する。(文・寺島武志)

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監督と主演スターの大喧嘩
昭和芸能史に残る、主役交代劇

降板→勝新太郎 代役→仲代達矢
『影武者』(1980)

(左から)映画『影武者』の監督・黒澤明と主演の仲代達矢
(左から)映画『影武者』の監督・黒澤明と主演の仲代達矢【Getty Images】

上映時間:179分
監督:黒澤明
脚本:黒澤明、井手雅人
外国版プロデューサー:フランシス・コッポラ、ジョージ・ルーカス
キャスト:仲代達矢、山﨑努、萩原健一、根津甚八、油井昌由樹、隆大介、大滝秀治、桃井かおり、倍賞美津子、室田日出男、志村喬、藤原釜足

【作品内容】

時は戦国時代。甲斐の武田信玄は野田城を攻め落とす折、城からの銃弾に倒れる。「自分の死を三年は秘匿しろ」と遺言を託された弟・武田信廉は、かねてより用意していた信玄と瓜二つの盗人を影武者として仕立てあげることに。

一度は逃亡しようとした盗人も、信玄の威光や死刑を救われた恩義を思い出すことで、自ら影武者になることを願い出る。

【注目ポイント】

カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した日本映画の金字塔作品。『どですかでん』以来、10年ぶりに日本で撮影された黒澤作品でもある。

ハリウッドの大手スタジオから世界配給された、最初の日本映画でもある。

しかも黒澤明を敬愛するフランシス・コッポラとジョージ・ルーカスが海外版プロデューサーとして参加し、黒澤作品で唯一、実在の戦国武将を取り上げており、公開当時は歴代映画興行成績で1位を記録した。

ほとんどの出演者を公開オーディションで募集したことでも話題となった。

もともと最初にオファーされたのは、武田信玄に若山富三郎、その影武者に勝新太郎と、兄弟でのキャスティングだった。しかし、若山が出演を断り、勝が1人2役を務めることに決まった。

日本を代表する名俳優と、世界的な映画監督のコラボレーションは、多くの映画ファンの期待を集めた。

しかし撮影開始直後に勝と黒澤との間で衝突が起こり、勝も降板してしまう。気に入らないことが起きると、車の中に“籠城”してしまう勝のエピソードは、あまりにも有名だ。

この降板劇は、戦後の芸能史に残るものとなった。NHKでドキュメンタリー番組となったほどだ。

勝の説得を断念し、新たに白羽の矢が立ったのが、これまた名優・仲代達矢。黒澤明とは映画『用心棒』(1961)などでもタッグを組んでおり、気心の知れた仲。仲代の一世一代の名演が功を奏し、映画『影武者』は興行収入約27億円の大成功を収めた。

しかし、「勝新の主演で見たかった」という映画ファンの声も根強く、それは仲代の耳に入ることになり、その後、勝と仲代は疎遠になってしまったという。

一方、勝は試写会で本作を鑑賞し、「俺が出ていれば、もっと面白かった」と語ったとされているが、一方では撮影復帰のために、様々な伝手を辿っていたとも囁かれている。

さすがの昭和の大俳優といえども、この大役には未練たっぷりだったというわけだ。

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