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今、ボブ・マーリーの伝記映画が求められるワケ。『ボブ・マーリー:ONE LOVE』考察&評価。文筆家・長谷川町蔵が解説

伝説のレゲエミュージシャンの波乱万丈な人生を映画化した『ボブ・マーリー:ONE LOVE』が公開中。1976年から78年にかけての「激動の1年半」にフォーカスした本作を、ブラックミュージックに精通する文筆家・長谷川町蔵によるレビューをお届け。作品の魅力に迫る。(文:長谷川町蔵)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】

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【著者プロフィール:長谷川町蔵】

東京都町田市出身。映画や音楽を中心として色々なものについて文章を書いている文筆家。主な著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(山崎まどかとの共著、DU BOOKS)、「文化系のためのヒップホップ入門1〜3」(大和田俊之との共著、アルテス・パブリッシング)など。

“「起承転結」で喩えるなら「転」のみを描いた映画”
九死に一生を得た後のマーリーの快進撃にフォーカス

映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
© 2024 PARAMOUNT PICTURES

「これって伝記映画とは言わないんじゃないの?」

 『ボブ・マーリー:ONE LOVE』を観て、そう思った人がいても決しておかしくはない。なぜなら本作、ジャマイカのローカル・ポップミュージックだったレゲエを世界に知らしめたスーパースターの36年間の生涯のうち、1976年から78年にかけてのたった1年半しかカバーしていないからだ。しかしこの時期こそ彼にとって最も激動の時代だった。つまり人生を「起承転結」で喩えるなら、本作は「転」のみを描いた映画といえる。

 物語冒頭、すでにスーパースターになっているボブ・マーリー&ウェイラーズは、地元ジャマイカでフリーコンサート「スマイル・ジャマイカ」を企画する。しかし政権党である人民国家党がこれを協賛したため、激しく対立する野党ジャマイカ労働党支持者の怒りを買ってしまう。その結果、武装した男たちの襲撃を受け、マーリーは胸と腕を狙撃されてしまうのだ(妻でバックシンガ―のリタも至近距離で撃たれたが、ドレッドヘアの厚みで一命を取り留める)。
 
 マーリーは二日後にコンサートに出演すると、8万人の大観衆を前に激しいパフォーマンスを披露したものの、翌日に出国。行き先は所属レーベルのアイランド・レコードの本拠地がある英国ロンドンだった。マーリーとウェイラーズはそこで『エキソダス(脱出)』と題されたアルバムの製作を開始する。

 異国の地でマーリーは自らの人生を振り返る。裕福な白人の父の私生児として生まれたこと、貧しい少年時代、トレンチタウンでの下積み時代、そしてリタとの出会い。但しそれらはあくまで断片的なものだ。

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