今、ボブ・マーリーの伝記映画が求められるワケ。『ONE LOVE』考察レビュー(4) タイトルに込められた深い意味とは?
伝説のレゲエミュージシャンの波乱万丈な人生を映画化した『ボブ・マーリー:ONE LOVE』が公開中。1976年から78年にかけての「激動の1年半」にフォーカスした本作を、ブラックミュージックに精通する文筆家・長谷川町蔵によるレビューをお届け。作品の魅力に迫る。(文:長谷川町蔵)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】
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【著者プロフィール:長谷川町蔵】
東京都町田市出身。映画や音楽を中心として色々なものについて文章を書いている文筆家。主な著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(山崎まどかとの共著、DU BOOKS)、「文化系のためのヒップホップ入門1〜3」(大和田俊之との共著、アルテス・パブリッシング)など。
映画のタイトルにもなった「One Love」が示す妻・リタへの愛
映画の中では、ロンドン滞在中のマーリーが、当時ロンドンを席巻していたパンク・ブームの立役者ザ・クラッシュのライブを観に行くシーンがある。そこでマーリーは、黒人だけでなく白人も資本主義に限界を感じつつあることを認識する。そんな当時のロンドンの空気を取り込んでレコーディングされたからこそ、『エキソダス』は従来のレゲエを超えたレベル・ミュージックを奏でたアルバムに仕上がったのだ。
とはいえマーリーは決して聖人ではない。スター願望も人並みにあったし、複数の愛人に子どもを生ませていた。しかしそれでもマーリーは最終的にはリタを頼り、彼女もマーリーを愛した。
映画は、アルバムのB面に収められた「Waiting in Vain”」や「Turn Your Lights Down Low」といったラブソングを、リタとの強い絆の証として描いている。『エキソダス』のラストを飾り、映画のタイトルにもなった「One Love」がどんな愛を示しているのか。答えは明らかだろう。
主演は、白人の父とカリブ海の島国トリニダード・トバゴ系の母を持つ(つまりマーリーとよく似た出自をもつ)英国人俳優キングズリー・ベン=アディル。『バービー』(2023)でケンのひとりを演じていた彼だが、『あの夜、マイアミで』(2021)では黒人解放運動の指導者マルコム・Xに扮しており、同作でも漂わせていたカリスマ性を武器に、複雑な内面を持つ伝説的なミュージシャンを演じきっている。
対するリタを演じているのは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021)で新しい007、ノーミを演じていたUKブラックのラシャーナ・リンチ。奇しくもマーベル・ユニバースのヴィラン/ヒーロー競演(ドラマ『シークレット・インヴェンジョン』(2023)のグラヴィクと、映画『マーベルズ』(2023)のマリア・ランボー)となったわけだが、抜群のケミストリーを生み出している。このカップルによる映画はまたどこかで観たいと思う。
(文・長谷川町蔵)
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