救いのない結末…日本映画史上、最も絶望的なエンディングをもつ作品5選。後味の悪さがクセになる…珠玉の作品をセレクト
世間には見る者の心をドン底に突き落とすような後味の悪い映画が存在する。しかし、その後味の悪さは妙に後を引く。今回はそんな危険な魅力を孕んだ後味の悪い結末の日本映画をご紹介。結末の内容に深く切り込むため、物語のラスト(=ネタバレ部分)を記すので、未見の方は注意していただきたい。(文:村松健太郎)
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【著者プロフィール:村松健太郎】
脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。
物語に没入していた観客を一気に突き放す結末
『それでもボクはやってない』(2007)
上映時間:143分
監督:周防正行
脚本:周防正行
キャスト:加瀬亮、瀬戸朝香、山本耕史、もたいまさこ、田中哲司、光石研、尾美としのり、大森南朋、鈴木蘭々、唯野未歩子
【作品内容】
周防正行監督にとっては大ヒットし、ハリウッドリメイクもされた『Shall we ダンス?』以来11年ぶりとなった作品。痴漢冤罪事件に巻き込まれた若者を主人公にした和製法廷劇の傑作。
【注目ポイント】
国内外で大ヒットを記録し、賞レースも賑わした『Shall we ダンス?』(1996)。しかしその反響の大きさ故に周防正行は次の企画に関しては“産みの苦しみ”を味わうことになる。結果として次作となる本作『それでもボクはやってない』を撮り上げるまでに11年もの歳月がかかってしまった。
主人公の徹平を演じるのは加瀬亮。担当弁護士に役所広司と瀬戸朝香、友人に山本耕史、裁判官に小日向文世など隅々まで豪華なキャストが並ぶ。
満員電車で痴漢行為を咎められた徹平は無実を主張するも受け入れられず逮捕・起訴されてしまう。
無実を証明する手立てを得られず焦る徹平だったが、仲間や弁護人たちは真相究明のために奔走する。『ファンシイダンス』(1989)ではお坊さん、『シコふんじゃった。』(1992)では学生相撲と、ニッチな世界を掘り下げ、専門用語を頻用しつつ観客を物語に引き込んでいく手並みは本作でも遺憾なく発揮されている。
事件当日の電車に乗り合わせていた乗客を探し出し、徹平の無実を証明するのに役立つような証言を引き出したり、当日の状況をセットで再現し、当日徹平が置かれていた状況下で痴漢が不可能であることを検証するビデオを制作するなど、あらゆる手を尽くして無罪を証明してきた徹平と仲間たちだったが、結果として有罪判決が下る。
映画は、判決を受け法廷で控訴を叫ぶ徹平を映し出して幕を下ろす。それまで無実を立証するためのアクションが綿密に描き込まれていたからこそ、それらが無に帰すラストが与える衝撃は半端ない。
真実はどうなのか? その後、徹平はどうなるのか? 映画は何も語らずに終わり、それまで物語に没入していた観客を一気に突き放す。