世界が熱狂…! 米アカデミー賞を制覇した日本人監督の傑作(3)極寒、酷暑に野生トラ…”世界の男”の執念は?
世界共通の文化である映画。毎年素晴らしい作品には、栄誉あるアカデミー賞が贈られる。アカデミー賞を受賞した作品は後世に語り継がれる名作となり、人々の心に生き続けるものとなる。しかし日本映画がアカデミー賞を受賞するのは容易くはない。そこで今回は、米アカデミー賞を席巻した日本映画を5本セレクトして紹介する。(文・寺島武志)
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多くの困難を乗り越えた秀作
『デルス・ウザーラ』(国際長編映画賞)
製作年:1975年
製作国:ソ連
英題:Dersu Uzala
上映時間:141分
監督:黒澤明
原作:ウラジミール・アルセーニエフ
脚本:黒澤明、ユーリー・ナギービン
キャスト:ユーリー・ソローミン、シュメイクル・チョクモロフ、マクシーム・ムンズーク、ウラジミール・クレナメ、スペトラーナ・ダニエルチェンコ
【作品内容】
アルセーニエフ(ユーリー・ソローミン)は、ソ連政府でも把握できていなかったシホテ・アリン地方の地図製作の命を政府から受け、探検隊を率いる。
先住民ゴリド族の猟師デルス・ウザーラ(マクシーム・ムンズーク)が、ガイドとして彼らに同行する。
大自然に溶け込むデルスらゴリド族の生き方にアルセーニェフは驚くとともに敬意を示し、次第に2人は友情で結ばれていく。しかし、過ぎ行く年月は残酷な別れを容赦なく突きつける。
【注目ポイント】
黒澤明が、当時の撮影フィルムの新規格「70mmフィルム」を使って製作したソ連作品。
1923年に出版されたロシア人探検家ウラジミール・アルセーニエフによる探検記録『デルス・ウザーラ』を原作とし、全編ソ連ロケで、その美しくも厳しい大自然が描かれている。
過酷なシベリアでソ連軍が護衛につく中で撮影が行われ、現地の撮影機器が古く、技術的な障害も立て続けに発生。さらに当時のソ連は計画経済のため、フィルムの長さで撮影ノルマが決められ、黒澤をはじめとする日本の撮影スタッフは苦労を強いられ、途中降板する者も現れた。
作中に登場するトラは、当初は動物園のシベリアトラを起用する予定だったが、黒澤が「目が死んでいる」とNGを出し、シベリアで野生のトラを捕獲した上で撮影した。ところが、野生のトラは夜行性のため、結局は飼い慣らされたトラを使って撮り直したという黒澤ならではのエピソードが残されている。
ドストエフスキーの小説を映画化した『白痴』(1951年)を観賞したソ連側からの映画製作オファーを受け続けてきた黒澤が24年越しのラブコールに応える形で実現した本作。
ロケは1年にも渡り、その間、極寒や酷暑にも耐え、撮影を続けた黒澤は当時すでに65歳。その事実だけでも、彼が根っからの映画人であることを示しているだろう。
さらに、資金は出すが、内容について口は一切出さないソ連側の製作陣と熱意あふれるスタッフたちのおかげで、自由な作品作りができたと、後に黒澤は謝意を語っている。
CGもVFXもない時代。それでも徹底的に画作りにこだわる黒澤を筆頭に、日本人とソ連人が手を携えて作り上げた本作は、ソ連代表作品としては、『戦争と平和』(1968年)以来となるアカデミー賞外国語映画賞を受賞する。
2度の「名誉賞」(1951年・1989年)と、『どですかでん』(1971年)でも外国語映画賞を受賞している黒澤。ノミネート回数も含めれば、この数字を超える日本人監督は現れていない。
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