『古畑任三郎』史上最高の神回は? 全43話中、最高に面白い傑作(4)大女優が凄すぎる…哀愁と狂気の名作とは
三谷幸喜が脚本を手掛けた刑事ドラマ『古畑任三郎』が、放送開始30周年を記念してフジテレビ系列で一挙放送される。そこで今回は、これまで放送された全43話の中から、珠玉の神回を5つ紹介。古畑が対峙した最強の犯人や事件が起きない異色回など、ドラマの魅力を余すことなく紹介する。(文・編集部)
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桃井かおりの演技が凄すぎる…!
女性犯人の哀愁と狂気を描いた人気回
「さよなら、DJ」VS中浦たか子(桃井かおり)
放送:1994年6月22日
演出:松田秀知
出演:田村正和、桃井かおり、西村雅彦、あめくみちこ、神津はづき、八木小織、宇梶剛士、池田貴族
【作品内容】
ある夜、古畑と今泉は、ラジオ番組『ミッドナイトジャパン』の人気DJ、中浦たか子(桃井かおり)の身辺警護のため、ラジオ局に呼ばれる。中浦宛にストーカーから殺害予告が届いたためだ。しかし、全ては自身の恋人を奪った付き人、エリ子(八木小織)への復讐のために中浦が仕組んだ狂言だった。そして番組の放送中に事件は起こるー。
【注目ポイント】
前ページで挙げたのり子・ケンドール然り、『古畑任三郎』に登場する女性の犯人は、皆恋の悲哀に満ちている。本話の犯人である中浦たか子も、間違いなくそんな犯人のうちの一人だろう。
本話は、1994年に放送された第1シリーズの第11話。ゲストスターとして桃井かおりが出演している。
本話で古畑が「潜入」するのはラジオ局。それも、1990年代に一世を風靡した『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)のような古き良き深夜ラジオの世界だ。こういった設定もあって、本話にはジュークボックスさながらに往年の名曲が数々登場する。
中でも印象的なのが、越路吹雪が歌う「サン・トワ・マミー」だろう。作中では、中浦がこの曲のオンエア中にスタジオを抜け出して犯行に及ぶ。中浦が廊下を裸足で全力疾走する様子は、しばしばアンニュイと呼ばれる桃井のイメージを逆手に取ったもので、それだけで絵になる。
アンニュイといえば、中浦のキャラクターについても触れないわけにいかないだろう。当時ラジオパーソナリティーとして人気を誇った中島みゆきを思わせる中浦のキャラクターには、ホンモノとしか思えないリアリティがある。まさにこの上ないハマり役といってよいだろう。
また、中浦の犯行シーンは、桃井のキレキレの演技も相まっていささか狂気じみている。特に被害者を一度殴りつけて「…痛い?」と訊いた後、鬼の形相で息の根を止める演技は、背景の夜桜も相まってシリーズ屈指の恐怖シーンに仕上がっている(このセリフ、なんと桃井のアドリブだという)。哀愁と狂気、この2つの感情の乱高下が本話の魅力なのだ。
また、本話は、三谷幸喜作品ではおなじみの「赤い洗面器の男」がはじめて登場した話でもある。この話は、赤い洗面器を頭に乗せた男とすれ違った人が、なぜ洗面器を頭に乗せているのか尋ねるという小咄だ。
作中では、中浦が番組のイントロでこの話について述べているものの、逮捕されることへの動揺から、結局番組内でオチを言及されることはなかった。そして解決編では古畑自身がこの小咄に言及する。
「どうして男は頭に赤い洗面器をのせていたのですか?」
「やだ。この続きは墓場まで持ちこんでやる」
かくして中浦の言葉通り、話の続きは墓場まで持ち込まれることになる。現に、この物語はその後、第21話「魔術師の選択」、第25話「消えた古畑任三郎」、第38話「最も危険なゲーム・後編」、スペシャル「すべて閣下の仕業」のほか、映画『ラヂオの時間』(1997)やドラマ『王様のレストラン』(1995)の第7話でも登場しているものの、いまだにオチは明かされていない。
「赤い洗面器の男」。それは、中浦が三谷作品にかけた永遠にとけない呪いなのかもしれない。
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