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原作を超えた…映画『キングダム』最終章のMVPは?(1)「魅力に乏しい」という印象を完璧に覆した俳優は?

text by ZAKKY

漫画家・原泰久による大人気コミック『キングダム』実写化シリーズ最終章となる映画『キングダム 運命の炎』が公開中だ。今回は、映画版キャストの再現度に着目し、実写版で最も活躍したキャストは一体誰なのか、原作ファンのライターが忖度なしでジャッジする。(文・ZAKKY )【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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「原作超え」の名シーンをものにする

信/山﨑賢人

山崎賢人【Getty Images】

山﨑賢人【Getty Images】

「信」というキャラクターの魅力とは何なのか? 

 個人的に、原作を読んでいる時点でも、序盤はずっと引っかかっていた。それは実写版にも言える。正直なところ、前作までは信のキャラクターとしての魅力を十分に感じられたとは言い難い。

 理由は単純だ。これは「キングダム」に限らず、昨今の漫画作品全般に見られる傾向なのであるが、主人公を超える人気を秘めたキャラクターをあらかじめ脇に配置しているからである。そこまで描写に力を入れずとも主役はそれなりに人気を博すに違いない。作品をバズらせるためには、とにかくサブキャラを魅力的にする。これが令和の漫画作品の鉄則になりつつあるのだ。

 その点を考慮すると、相対的に主人公の魅力が乏しいからといって、信というキャラクターにも、演じる山﨑賢人にも、一切罪はない。しかしである。本作では、そのような事情を吹っ飛ばすほど、信=山﨑賢人が素晴らしかった。

 まず、原作の流れとして、今回、信はどちらかと言うと“静”の役割を担わされている。物語のクライマックスを形成する、自身のボスである王騎(大沢たかお)と、その宿敵・龐煖(吉川晃司)の戦いをハラハラしながら静観するのが、今回の信の役回りだ。

 言うまでもなく、“静”の芝居をこなすには、派手なアクションで魅せる“動”の芝居よりも、より一層繊細な演技力が必要となる。その点、本作のハイライトと言えるのが、冒頭の戦いで、龐煖にお互い瀕死の状態にされた、親友である尾到(三浦貴大)を看取ったシーンだろう。

 一度、死んだふりをした尾到が、その後、安らかに息を引き取る。このシーンにおける、山﨑賢人の表情が絶品であった。親友が目の前で息を引き取ったことの喪失感、ショックを、決して説明的にならずに、絶妙なバランス感覚で伝えるその芝居を観て、涙腺が緩んだ観客は少なくないだろう。

 尾到を演じる三浦貴大の鬼気迫る名演もあいまって「原作超えた」と言い切っても差し支えない名シーンに仕上がっていた。

 一方で、今回ではどちらかと言うと控えめであった、信の“動”のシーンにも見どころがあった。一見してわかるのは、俊敏な足の速さが前作以上に増しているということだ。戦闘シーンにおいて「飛信隊」を先頭で率いる姿は、実にダイナミックで、永遠に観ていたいと思わせる爽快さがあった。

 山﨑の走りに必死に食らいついていく飛信隊の隊員たちを演ずる俳優たち。何より本作における山﨑は、自身のパフォーマンスによって追従する役者たちのポテンシャルを高めることで、画面全体の緊張感、運動感を高めることに寄与しているところが素晴らしい。

 主役を演じる俳優が自身の演技によって周囲を感化し、作品のクオリティを底上げする。これは、映画やドラマといったメディアでしか起こりえない現象だろう。

 信の全力疾走に、“原作を超える”迫力がみなぎっているのは、卓越した運動神経もさることながら、「信」というキャラクターに対する想いがあふれ出し、周囲の俳優の能力を十二分に引き出した山﨑の座長としての覚悟に拠るところが大きい。

 本作を観て、「信は主人公として魅力に乏しい」という筆者の考えが180度変わったことは言うまでもないだろう。
 
(文・ZAKKY)

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