映画史上最も救いのないラストは? 最悪の結末を迎える洋画(3)いっそ殺してくれ…正しい人が救われない悲劇
残酷、理不尽、悲劇…。後味の悪いエンディングを迎える映画が、我々に与えてくれるものはなんだろうか? 刺激や教訓はあれど、できることなら救われてほしいと願ってしまう。しかし一方で、バッドエンドの映画に魅了されてしまうのも人の性。そこで今回は、史上最も残酷な結末を迎える海外映画を、5本セレクトして紹介する。(文・市川ノン)
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正しかったはずの主人公が迎える最悪の結末
『ミスト』(2007)
監督:フランク・ダラボン
脚本:フランク・ダラボン
出演:トーマス・ジェーン、ローリー・ホールデン、ネイサン・ギャンブル、トビー・ジョーンズ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・サドラー
【作品内容】
舞台はアメリカの郊外都市。主人公のデヴィッド・ドレイトン(トーマス・ジェーン)は、妻のステファニー(ケリー・コリンズ・リンツ)、8歳の息子・ビリー(ネイサン・ギャンブル)と共に、湖からほど近い一軒家に住んでいる。
ある日、大型台風が到来し、デヴィッドの自宅は半壊状態に。デヴィッドは自宅に妻を残し、ビリーと隣人のブレント・ノートン(アンドレ・ブラウアー)を車に乗せて、街のスーパーマーケットへ修理工具の買い出しに出かける。
スーパーに到着すると、店内は多くの人でごった返している。デヴィッドたちが店内をまわっていると、突然パトカーや緊急車両のサイレンが鳴り響き、店の外は濃い霧に包まれるのだった…。
【注目ポイント】
本作は、有事に際した人間たちの分断の様子がよく描かれている。正体不明の出来事に対し、楽観視する者、宗教に固執し現実逃避する者、そして解決の手立てを現実的に思考する合理主義者などだ。
思い返すとコロナ禍では、ウイルスをバカにしたような楽観論を振りかざす者、陰謀論にハマる者など、様々な反応を目にする機会が多かった。その点、コロナ禍を経験した我々の目には、本作が描く人間模様はきわめてリアルに映る。
主人公のデイヴィッドらは謎に対し、現実的に考える集団である。彼らは終盤、宗教の信者たちから逃げ、ミスト脱出の可能性に賭けて車に乗り込む。しかし、いくら走らせてもミストは晴れず、異形の怪物たちが跋扈する世界が続いていく。そして、ついにガス欠で1mも進むことができなくなるのだ。
すべてを悟った一行。デイヴィッドは「俺は自分でなんとかする」と仲間3人と眠る我が子へ、残り4発となった拳銃の引き金を引くのだ。死しか待っていないデイヴィッドは車を降り、ミストに向かって「殺してくれ」と叫ぶが、なぜかモンスターたちはデイヴィッドを捕食しにかからない。
しばらくして、低い唸り声のような音が聞こえ、死を覚悟するデイヴィッド。しかし、ミストから現れたのは戦車や怪物を焼き払う兵隊たち、そして多くの生存者を乗せたトラックだった。
愕然とするデイヴィッドは、後悔の念を駆られ咆哮する。それと同時に、観客も彼と同じ思いを抱くのだ。「あと数分待っていれば」と。
観客は映画をメタ的に見ているため、分断が起こった集団においてデイヴィッドたちの判断は間違っていないことがわかる。つまり、楽観視することも陰謀論に走ることも、「バカだ」と思えるのだ。
しかし、こうした正しかったはずのデイヴィッドたちは結果的に間違ってしまった。観客は「正しい人が救われない」という理不尽さに打ちひしがれるのだ。
(文・市川ノン)
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