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なぜ遺影は笑うのか? 多幸感あふれるラストの意味は? 映画『サマーウォーズ』論【後編】細田守の代表作を深掘り考察&解説

text by 伊藤弘了

映画研究者の伊藤弘了による、名匠・細田守監督初の長編オリジナル作品『サマーウォーズ』(2009)論。後編では、画面を注視することで浮かび上がる「着替え」のテーマ、多幸感あふれるクライマックスについて解説する。(文・伊藤弘了)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール 伊藤弘了(いとう・ひろのり)】

 映画研究者=批評家。熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授。1988年、愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。小津安二郎を研究するかたわら、広く映画をテーマにした講演や執筆をおこなっている。「國民的アイドルの創生――AKB48にみるファシスト美学の今日的あらわれ」(『neoneo』6号)で「映画評論大賞2015」を受賞。著書に『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所)がある。毎日新聞社が運営する映画情報サイト「ひとシネマ」にて「よくばり映画鑑賞術」を連載中。

「賭け」のモチーフと反復される笑顔

『サマーウォーズ』細田守監督、2009年(DVD、バップ、2010年)

【図1】『サマーウォーズ』細田守監督、2009年(DVD、バップ、2010年)

 花札もまた劇中で三回繰り返される象徴的なモチーフである。一度目は夏希と侘助、二度目は健二と栄が対戦しており、夏希とラブマシーンの対戦は「三度目の正直」に当たる。

 興味深いことに、いずれの勝負にも「賭け」が介在している。一度目の際には、連絡先を教えてほしいと請う夏希に対して侘助が「勝ったらな」と答え、三光から四光への上振れを狙う彼女をカス三文で突き放す。

 二度目には、栄が対戦中に「何か賭けないとつまらないじゃないか」と言い出し、健二に「もし私が勝ったらあの子をよろしく頼むよ」「夏希をよろしく頼むよ」と伝えている。

 実質的にはこれは栄から健二への依頼であって、勝敗とは関係がない。じっさい、まだ決着がついていない段階で健二はそれに応える姿勢を見せる。とはいえ、いかにも自信なげな様子ではある(「まだ僕は自分に自信が持てません」「やってみます、としか今は言えません」)。

 直後に栄が上がって勝利し、形式的にも賭けが成立することになる。ここで栄が浮かべた満面の笑顔は、最初に健二と会ったときに見せたものの反復である。二回繰り返された彼女の笑顔【図1】には、当然三度目が用意されているわけだが、その前に確認しておくべきことがある。

 侘助と栄がいずれも花札に賭けを持ち込んでいる点は象徴的である。妾の子であり、養子として陣内家に迎え入れられた侘助には栄との直接的な血のつながりはない。にもかかわらず、勝負事を好む性格は共通している。二人が紛れもなく家族であることを印象づけるエピソードとなっているのである。

 非嫡出子としての負い目を感じていた侘助は、栄に報いるために一発逆転を期してラブマシーンを開発する(「今まで迷惑かけてごめんな。挽回しようと思って、俺、頑張ったんだよ」)。そのラブマシーンにゲーム好きの性質が付与されているのは、物語の論理としてもはや必然と言ってよい。

 ラブマシーンは、言わば鬼子によって生み出された鬼子であり、密かに陣内家の遺伝子を組み込まれた存在なのである。

 栄は本能的にそれを直観したからこそ、薙刀を振り回し、侘助に死を迫るほどに激昂したのだろう(栄の財産が開発費に流用されたことは、したがって副次的な理由に過ぎない)。この解釈に従えば「身内がしでかした間違いは、みんなでカタをつけるよ」という栄の言葉は、侘助だけでなく、ラブマシーンにも向けられていることになる。

 侘助に花札で一度負けている夏希にとって、ラブマシーンとの勝負は敗者復活戦に当たる。敗者復活戦を戦っているという意味では、花札で夏希に勝った侘助も実は同じである。ハッキングAIという誤った誕生日プレゼントを携えて帰郷し、栄への恩返しに失敗した侘助は、iPhoneのパスコードを突破した夏希の説得に応じて舞い戻り、今度こそ挽回を果たすべく奮闘する。

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