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ツウが厳選…心にズシリとくる邦画の傑作は? 日本の闇映画(4)集団心理が怖い…身の毛もよだつ日本の黒歴史

text by 阿部早苗

テレビをつければ、差別、貧困、虐待にまつわる話題は事欠かない。しかし、ニュースが報じるのは事象のごく一部のみ。社会問題の根っこにフォーカスし、可視化すること。それは映画が果たすべき重要な役割の1つだろう。今回は、日本社会が抱える暗部に鋭くメスを入れた近年の傑作を、5本セレクトして紹介する。(文・阿部早苗)

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【著者プロフィール:阿部早苗】

神奈川県横浜市出身、仙台在住。自身の幼少期を綴ったエッセイをきっかけにライターデビュー。東日本大震災時の企業活動記事、プレママ向けフリーペーパー、福祉関連記事、GYAOトレンドニュース、洋画専門サイト、地元グルメライターの経験を経て現在はWEB媒体のニュースライターを担当。好きな映画ジャンルは、洋画邦画問わず、社会派、サスペンス、実話映画が中心。

歴史の闇が現代に問いを突き付ける

『福田村事件』(2023)

俳優の井浦新【Getty Images】
俳優の井浦新【Getty Images】

上映時間:136分
監督:森達也
脚本:佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦
キャスト:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、松浦祐也、向里祐香

【作品内容】

1923年、京城から福田村に帰ってきた澤田夫婦(井浦新・田中麗奈)は、朝鮮人に対する差別を目の当たりにする。その後、関東大震災が発生。大混乱の中、誇張されたデマが広がり、自警団は次々と朝鮮人を殺していく。

【注目ポイント】

 これまで『A』(1998)『FAKE』(2016)など社会派ドキュメンタリー映画を手がけてきた森達也監督が、関東大震災後の福田村で実際に起きた虐殺事件を題材にした自身初となる長編劇映画。主人公の井浦新をはじめ、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明と豪華キャストが出演している。

 1923年9月に発生した関東大震災から100年後の2023年に公開された本作は、集団心理、政府の失政を隠すマスコミ、差別など現代社会と通じる様子を映し出し、タブー視されていた歴史の闇を史実に基づいて描いた作品だ。

 井浦新が演じる主人公・智一は、日本統治下の京城で日本軍による朝鮮人大虐殺を目撃し、トラウマを抱える。戦争が終わると、妻の静子(田中麗奈)と共に帰国する。

 故郷の福田村では、朝鮮人は危害を加えるというデマが浸透し、不安に駆られる村人は、やがてコミュニティを守るために自警団を結成。関東大震災が発生すると「朝鮮人に襲われた」「朝鮮人が集団で襲ってくる」などと確証のない噂が瞬く間に広がり取り締まりを強化。自警団は彼らが朝鮮人とみなした人たちを次々と殺していった。

 地震発生から5日後、香川から来た沼部(永山瑛太)率いる薬売りの行商団15名は次の土地に向かう途中、讃岐弁で話していたことから朝鮮人と間違われ、自警団によって幼児や妊婦を含む9名が殺害されてしまう。

 終盤では、沼部たちが朝鮮人ではないことが判明すると安易にデマを信じた自警団の罪の擦り付け合いがはじまり、集団心理と流言飛語の恐ろしさをこれでもかと突き付けてくる。

 デマが人から人へと伝わることで内容が誇張化されていく過程は、ネット社会になった現代のSNSと通じるものがあるように思える。安易に信じた内容を拡散できるSNSによって、人は簡単に加害者側になってしまうことを忘れてはならない。

「福田村事件」は、100年前、実際に起きた。作り手の怒りと「今これを世に問わなければいけない」という切迫感に圧倒される1本だ。

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