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「丁寧な暮らし」に潜む狂気とは? 映画『愛に乱暴』考察&評価レビュー。映像化困難とされた吉田修一の原作、実写版の是非は?

text by 青葉薫

作家・吉田修一の同名小説を江口のりこ、小泉孝太郎、風吹ジュン、馬場ふみか、ら豪華キャストで映画化した『愛に乱暴』が公開中だ。家父長制が根強く残る「家」を舞台に「居場所」を巡る葛藤を狂気とユーモアを交えて描いた本作の魅力を解説する。(文・青葉薫)【あらすじ 解説 考察 評価】

【著者プロフィール:青葉薫】

横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。

「居場所」を巡る葛藤を狂気とユーモアを交えて描く

Ⓒ2013吉田修一/新潮社Ⓒ2024「愛に乱暴」製作委員会

Ⓒ2013吉田修一/新潮社Ⓒ2024「愛に乱暴」製作委員会

 誰もが居場所を探している。家庭に、学校や職場に、地域に、社会の中に安住の地を希求している。人間だけではない。この惑星に存在するすべての生命が居場所を必要としている。

 居場所のあるなしは生き辛さに直結しているからだ。しかしながら居場所というのは、潮の満ち引きで干上がったり水没したりする潮溜まりのように失われていくものでもある。自分本位な開発で森林を伐採する人間や、木造建築に巣くう白蟻のように奪い合うものでもある。

 また、侵略者に領土を奪われる先住民族や無責任な飼い主に遺棄される愛玩動物のように理不尽に追い出されることもある。たとえば、愛情を感じられなくなった妻を捨て、不倫相手と新たな人生を歩んでいこうとする本作の夫のように。

 映画『愛に乱暴』は家父長制が根強く残る「家」を舞台に「居場所」を巡る葛藤を狂気とユーモアを交えて描いたヒューマンサスペンスだ。

 原作は「悪人」「さよなら渓谷」「怒り」など数多のベストセラー作品が映画化されている吉田修一。愛が孕むいびつな衝動と暴走を描いた同名小説をCMディレクターとして国内外の広告賞を席巻し、初の長篇作「おじいちゃん、死んじゃったって」がヨコハマ映画祭で森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞した森ガキ侑大監督が映画化。世界12大国際映画祭に数えられるカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭のコンペティション部門に選出されている。

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