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「ここで私が諦めたら電器屋の映画は生まれない」沢田研二を店主に迎えた安田真奈監督、ロングインタビュー【前編】

text by 田中稲

「出会い運に恵まれている」そう語るのは、上野樹里主演『幸福(しあわせ)のスイッチ』(2006)監督・脚本で劇場デビューした安田真奈だ。本作では、大スター沢田研二を父親役に迎えた。その後も小芝風花や堀田真由などの実力派の若手とともに、 観客の心に寄り添う作品を作り続けてきた。各作品の製作裏話を伺った。(取材・文:田中稲)

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【安田真奈監督プロフィール】

奈良県出身。メーカー勤務の後、上野樹里主演『幸福(しあわせ)のスイッチ』(2006)監督・脚本で劇場デビュー。本作にて第16回日本映画批評家大賞特別女性監督賞、第2回おおさかシネマフェスティバル脚本賞を受賞。堀田真由主演『36.8℃サンジュウロクドハチブ』(2018)、小芝風花主演『TUNAガール』(2019)、片岡千之助主演『メンドウな人々』(2023)、片岡礼子主演短編『あした、授業参観いくから。』(2021)など監督・脚本担当。

『幸福(しあわせ)のスイッチ』(2006)
沢田研二が醸し出す「リアリティ」と「スターの個性」

©2006「幸福のスイッチ」製作委員会
©2006「幸福のスイッチ」製作委員会

―――『幸福(しあわせ)のスイッチ』は、今年6月にNHK-BSで放送され、放送時はSNSでも温かなコメントが飛び交っていました。改めて、本作を撮るに至った経緯を教えてください。

「電機メーカーで約10年働いたんですが、サラリーマンの方が頑張る姿を間近で拝見して、すごいなぁと思いました。そこから、頑張る父親の背中を通して、家族の絆や仕事の尊さを描きたくなったんです。街の電器屋さんは、修理が終わったら食事や風呂を勧められるなど、絆が濃密なので舞台にピッタリ。

でも、映画化は難航しました。『電器屋の家族モノで、新人監督のオリジナル脚本なんて、地味で集客できない』とあちこちに断られ、『私が諦めたら電器屋の映画は生まれない!』と意地に(笑)。取材や改稿を重ね、3年かかって、ようやく映画化が決定しました」

―――キャスティングが素晴らしかったですね。なんといっても、頑固おやじ誠一郎役の沢田研二さん。あのジュリーが普通の父親を演じたのは、はじめてじゃないでしょうか。

「舞台が和歌山県なので、関西弁を話せるキャストを探していたのですが、誠一郎役がなかなか見つからなかったんです。そんな中、一度沢田さんとお仕事したことのある製作スタッフの方が『言葉も関西ネイティブだし、イメージに合うから、ダメもとでシナリオを読んでみてもらおう』と提案してくださったんです」

―――そして、沢田さんが脚本を気に入って快諾なさったのですね。

「本当に有り難いことです。新人女性監督の劇場デビュー作、しかもオリジナル脚本で単館系作品…。スーパースターの沢田さんが出演!?と、映像業界の方々に驚かれました。

きっと沢田さんも色んな方に言われたんでしょうね。本作で日本映画批評家大賞の主演男優賞を受賞された際、授賞式で『なぜ出たと聞かれるけど、脚本が良かったから』とコメントしてくださいました。嬉しくて涙が出ましたね」

―――大スターの沢田さんに対して緊張や不安はありませんでしたか。

「沢田さんは出番が多い印象ですが、撮影は5日のみ。私もスタッフも、緊張してお迎えしました(笑)。でも、沢田さんがとても気さくで、新人監督だからと軽んじない丁寧な方だったので、救われました。『まだ娘と通じ合ってないので、目線を合わさず、もう一回お願いします』『ハイ』という感じで、リクエストに真摯にこたえてくださり、感激しました」

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