最も恐ろしい日本のヤクザ映画は? 世界に誇る珠玉の傑作(4)豚の糞を食わせるリンチが衝撃的…最狂の暴力映画
マキノ雅弘から北野武まで、長い歴史を誇るヤクザ映画。1970年代に東映が展開した“実録路線”は社会現象を巻き起こし、その後のVシネマに至るまで、形を変えて多くの名作が映画史を彩ってきた。 今回はノンフィクションに材をとったヤクザ映画を中心に名作をセレクト。場面のディテールと共に紹介する。第4回。(文・ 村松健太郎)
—————————————-
『狐狼の血』(2018)
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
原作:柚月裕子
出演:役所広司、松坂桃李、真木よう子、音尾琢真、駿河太郎、中村倫也、阿部純子、野中隆光、中村獅童、竹野内豊、嶋田久作、勝矢、さいねい龍二、MEGUMI、伊吹吾郎、滝藤賢一、矢島健一、田口トモロヲ、ピエール瀧、石橋蓮司、江口洋介
【作品内容】
昭和63年の広島・呉原。対立する2つの組の間で膠着状態が続いていた。そんな中、若手刑事の日岡(松坂桃李)が呉原東署に赴任し、ベテラン刑事でありながらも黒い噂のある大上(役所広司)と共に暴力の世界に切り込んでいく。
【注目ポイント】
かつて東映が量産していたヤクザ映画だが、撮影所システム崩壊後、製作本数は減少の一途をたどるハメに。そんな中、21世紀に入り、ワーナーブラザーズ・ジャパンが北野武と組んで『アウトレイジ』3部作を製作。興行・批評の両面で大成功させる。
『アウトレイジ』の成功に触発されたのか、「このジャンルの映画は東映が作るべき!」という一種の使命感のようなものを濃厚に身にまとった映画が『狐狼の血』だ。
舞台は広島の架空の都市“呉原市”となっているが、『仁義なき戦い』の舞台となった呉市をモチーフにしているのは明らかだろう。基本的には架空の設定ではあるものの原作者の柚月裕子が公言している通りかつての実録路線が強く意識されていて、物語も『仁義なき戦い』で描かれた広島抗争が下敷きになっている。
とはいえ、物語の主軸を役所広司演じる悪徳刑事と松坂桃李演じる新米刑事に据えているのは新機軸と言えるだろう。バイオレンス描写に定評のある白石和彌監督作品ということで堂々のR-15指定映画となっている。
東映が意地を見せた『狐狼の血』は興行・批評の両面で成功をおさめ2021年に『孤狼の血LEVEL2』(2021)がスタッフ・キャスト続投で製作された。続編は鈴木亮平演じる暴走型のヤクザが事実上の主役となり、1作目とはまた違った感触の映画となった。
個人的には、『狐狼の血』と『孤狼の血LEVEL2』の作風の差異は、『仁義なき戦い』と『仁義の墓場』の作風の差異に近いものを感じる。
松坂桃李演じる日岡の通過儀礼的に暴力行為が描かれる本作だが、特筆すべき恐怖シーンはまず冒頭のあいさつ代わりの粛清シーンだろう。養豚場でリンチが行われ、豚の糞を無理矢理口に詰め込まれた上で植木鋏で指を切断させられる。
この養豚場のシーンは映画の“挨拶代わり”的なアバンタイトルで終わるのかと思いきや、終盤、役所広司演じる大上の凄惨な最期に繋がる伏線になっている。
この展開が、日岡をある種の“覚醒”に導くことになり続編での変貌に繋がることになる。
(文・ 村松健太郎)
【関連記事】
最も恐ろしい日本のヤクザ映画は? 世界に誇る珠玉の傑作(1)
最も恐ろしい日本のヤクザ映画は? 世界に誇る珠玉の傑作(5)
最も恐ろしい日本のヤクザ映画は? 世界に誇る珠玉の傑作(全紹介)
【了】