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“ありえない実話”を基にした洋画の傑作は? 珠玉の名作(1)悪魔の産物を宝に変える…食欲が刺激される1本

text by 阿部早苗

世の中には、自分には決して真似できないと思うような苦しい戦いを乗り越えてきた先人たちが存在する。今回は、実話を基にした、心が温まる洋画を5本セレクト。世界各国で、仕事や病、時には国家や迫害者とひたむきに戦った人々の真実を描いた作品をご紹介する。第1回。(文・阿部早苗)

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『デリシュ!』(2022)

グレゴリー・ガドゥボワ
グレゴリー・ガドゥボワ【Getty Images】

上映時間:112分
原題:Delicieux
製作国:フランス、ベルギー
監督:エリック・ベナール
脚本:エリック・ベナール、ニコラ・ブークリエフ
キャスト:グレゴリー・ガドゥボワ、イザベル・カレ、バンジャマン・ラベルネ、ギョーム・デュ・トンケデック

【作品内容】

1780年代のフランス。宮廷料理人のマンスロンは、ジャガイモを使用した創作料理によって料理人を解雇されてしまう。実家に帰り意気消沈するなか、謎の女性・ルイーズが弟子入りを熱望し、再び料理と向き合う。

【注目ポイント】

 レストランといっても様々な形式が存在する。なかでも子連れで利用できる”ファミレス(ファミリーレストラン)”は馴染みがあるだろう。

 ちなみに、レストランはフランス語の”restaurant”が由来で、初めてレストランが誕生したのも美食の国フランスだった。

 本作は18世紀のフランスを舞台に、世界初となるレストランが開業するまでの誕生秘話を描いた作品だ。

 誇り高い宮廷で料理人をしているマンスロン(グレゴリー・ガドゥボワ)は、公爵主催の食事会でジャガイモを使った創作料理「デリシュ」を提供。当時、ジャガイモは悪魔の産物とみなされ、敬遠されていた。これに貴族たちは激怒し、マンスロンはクビに。同じく宮廷で料理人をしていた息子と共に故郷に帰る。

 すっかり料理に対する情熱を失ったマンスロンのもとに、料理を学びたいという謎の女性・ルイーズ(イザベル・カレ)が訪ねてくる。彼女の熱意によって、再び料理作りと向き合う彼は、やがて息子とルイーズと共に庶民向けのレストランを開業する。

 前述したように、18世紀のフランスでは、ジャガイモやトリュフは悪魔の産物とされ、食材として使用する人はいなかった。それを知らないはずのないマンスロンが、ジャガイモを使用した「デリシュ」を作ったのは、自由に料理を作りたいというシェフとしての矜持だろう。

 レストラン開業まで、火事に見舞われるなどトラブルが起きる度に悲観的になるマンスロン。そんな彼を傍で支えるルイーズは常に前向きだ。

 ルイーズはマンスロンを支えつつも、実は夫を死に追いやった公爵への復讐を密かに企んでいた。復讐のために不可欠なマンスロンを再び料理と向き合わせる必要があったのだ。

 とはいえ、動機はどうあれ、ルイーズがマンスロンをレストラン開業へと導いたのは事実だ。終盤では熱意のあるマンスロンに惹かれていくといったラブストーリーの王道の展開が描かれるが、あくまで料理をメインにしていることには変わりなく、スパイスとして作品に彩りを加えている。

 王族や貴族が、庶民と同じ空間で食事を楽しむということがありえなかった時代。美食の国ならではの数々の料理はもちろん、18世紀の貴族たちの華やかな衣装にも目を奪われる一作だ。

(文・阿部早苗)

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