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観察映画が体現する「よく観る」ことの大切さとは? 想田和弘監督最新作、映画『五香宮の猫』考察&評価レビュー

text by 青葉薫

映画『選挙』(2007)『精神0』(2020)などの想田和弘監督最新作『五香宮の猫(ごこうぐうのねこ)』が10月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムを皮切りに全国公開される。想田監督が実践する「観察映画」という言葉をキーワードに、作品の魅力を紐解く。(文・青葉薫)【あらすじ 解説 考察 評価】

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【著者プロフィール:青葉薫】

 横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。

目に映る世界を”ありのまま”に描写する観察映画

(C)2024 Laboratory X, Inc
(C)2024 Laboratory X, Inc

 可能ならば一切の前情報を入れずに鑑賞することをお勧めしたい。先入観や偏見、固定観念を排して目に映るものを「よく観る」こと。それこそが想田和弘監督の定義する「観察映画」とのもっとも幸せな出会い方だと思うからだ――なんてアドバイスすら先入観になってしまうので本当は忘れてほしい。

 舞台となっているのは瀬戸内の風光明媚な港町・牛窓。古くから親しまれてきた鎮守の社・五香宮には参拝者だけでなく、さまざまな人々が訪れる。近年は多くの野良猫たちが住み着いたことから“猫神社”とも呼ばれている。本作はそんな牛窓に移住した想田監督が本作のプロデューサーにして妻である柏木規与子さんとともに新入りの住民として暮らしながら、目に映る世界を”ありのまま”に描写した観察映画だ。

 観察映画――その言葉に馴染みのない方も多いかもしれない。表面的にはナレーションやテロップによる説明、BGM等がない、シンプルなスタイルのドキュメンタリーである。想田監督は自ら設定したルールに乗っ取って、これまで9作の観察映画を撮ってきた。そのルールというのが本作のサイトにも掲載されている「観察映画の十戒」である。

1. 事前のリサーチは行わない。
2. 打ち合わせは、原則行わない。
3. 台本は書かない。
4. カメラは原則自分で回し、録音も自分で行う。
5. カメラはなるべく長時間、あらゆる場面で回す。
6. 撮影は、「広く浅く」ではなく、「狭く深く」を心がける。
7. 編集作業でも、予めテーマを設定しない。
8. ナレーション、説明テロップ、音楽を原則として使わない。
9. 観客が十分に映像や音を観察できるよう、カットは長めに編集し、余白を残す。
10. 制作費は基本的に自社で出す。

 記念すべき10作目となる本作も、テーマもなければ事前の下調べもしていないそうだ。もちろん伝えたいメッセージもないという。どこに着地するのかもわからないまま、カメラは目の前で繰り広げられる人間と猫の営みを静かに、真摯に記録していく。生きとし生けるものが織りなす豊かな光景を。愉快で厳しく、シンプルで複雑な生命の営みを。

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