映画『ヒトラーのための虐殺会議』忖度なしのガチレビュー。観客を“共犯者”にする演出とは? 戦争の危機迫る今こそ観たい逸品
text by 寺島武志
ユダヤ人強制送還およびホロコースト(大量虐殺)の発端となった「ヴァンゼー会議」。世界史において悪名高い“世界最悪の会議”の全貌を明らかにする映画『ヒトラーのための虐殺会議』が公開中だ。未だロシア・ウクライナ問題の解決がなされず、戦争へと傾斜する時代だからこそ観たい、必見の作品となっている。今回は同作のレビューをお届けする。(文・寺島武志)
ホロコーストに異を唱える者は皆無…。
“史上最悪の会議”をリアルに再現
ヨーロッパ全土にいる1100万人ものユダヤ人の絶滅政策を実行するためのヴァンゼー会議を題材とした映画『ヒトラーのための虐殺会議』が公開中だ。日本国内の封切り日にあたる2023年1月20日は、そのヴァンゼー会議が開催された日からちょうど81年のタイミングでもある。
1942年1月20日、ドイツ・ベルリンのヴァンゼー湖畔の大邸宅でアドルフ・ヒトラー率いるナチス親衛隊と事務次官たちが国家保安部長官のラインハルト・ハイドリヒ(フィリップ・ホフマイヤー)に招かれ、会議が開かれた。その議題は「ユダヤ人問題の最終的解決」、つまりユダヤ人の“絶滅”だ。
会議には、司法省、内務省、外務省などの官僚が集まってくる。しかし、「やれやれユダヤ人問題か」とつぶやく者、「こいつは好かんから下座だ」と会議の席を勝手に変えてしまう者、「まるで職場の飲み会だ。互いの腹を探り合うのさ。ビールなしでさ」と話す者もいる。まるで、ルーティンと化した日本企業の社内ミーティングのようでもある。
そして、ユダヤ人抹殺のために、移送や強制収容と労働、計画的殺害などといった異常ともいえる議案が淡々と議決される。ホロコーストに異を唱える者は誰一人いない。それは、あまりにも異様な光景だ。その間たったの90分。本作では、その場面をありのままに描き出している。人類史上最悪の会議の全貌が80年後、緊張感ある空気感をもって、スクリーンに再現されている。