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邦画史上もっとも“意味深”なラストは? 余韻がスゴい結末(3)愛する人の首を絞める…残酷ながらも泣ける傑作

text by シモ

あなたは映画に何を求めているだろうか? 突き詰めると心の変化を欲しているのではないだろうか。とりわけ、感情の整理がつかない、何とも曖昧な結末を迎える映画には、観る者の人生を変える力がある。そこで今回は、絶望と希望が合わさった不思議な結末の日本映画を、5本セレクトして紹介する。第3回。※この記事では物語の結末に触れています。(文・シモ(下嶋恵樹))

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複数の感情に引き裂かれる結末は必見

『悪人』(2010)

妻夫木聡
妻夫木聡【Getty Images】

監督:李相日
脚本:吉田修一、李相日
出演:妻夫木聡、深津絵里

【作品内容】

 長崎のはずれの小さな漁村で解体工員として働く祐一(妻夫木聡)は、祖父母と暮らす青年だ。ある日、彼は、出会い系サイトで知り合った佐賀在住の光代(深津絵里)と出会う。

 逢瀬を繰り返す2人の間には徐々に恋愛感情が生まれていくも、祐一は、その数日前に殺人事件を犯していて…。

【注目ポイント】

 本作品は、芥川賞作家・吉田修一の同名ベストセラー小説を映画化した物語である。本作の物語を凝縮して表現するなら、次のような言葉になるだろうか。「人生のボタンの掛け違い」。

 孤独な心を癒やすために、出会い系の女にはけ口を求める祐一。

 彼は、佳乃(満島ひかり)の不遜な態度に腹を立てて、彼女を殺してしまう。殺された佳乃の側に視点を移すと、彼女を邪険に扱う恋人の増尾(岡田将生)と喧嘩したことが、祐一に殺される運命を招き寄せたと考えることができる。運命の歯車がほんの少しでも違っていたら、2人は加害者にも被害者にもなっていなかったに違いない。

 深津絵里演じる光代も、事件が起きる前に祐一に出会っていれば、“殺人者の恋人”になることはなかった。原作者の吉田修一と監督の李相日が共同で執筆したシナリオは、人間関係の網の目を些細な描写でつぶさにすくい取ることによって、ボタンの掛け違いが生み出す悲劇をリアルに描くことに成功している。

 祐一と光代は次第に、お互いになくてはならない存在になるが、その時間は長くは続かない。

 終盤、光代は祐一と離れた隙に警察に見つかり、交番に連行されるが、警察の目を盗み、祐一のもとに舞い戻る。祐一は光代を強く抱きしめるが、警察が近づいてくる気配を察すると、「俺はあんたが思っているような男じゃない」と言い、光代の首を絞め上げる。程なくして、警察が到着し、祐一は逮捕、光代は保護される。

 文面だけだと祐一の行動は突飛なものに見えるかもしれない。しかし、本作を冒頭から丁寧に見続けてきた者であれば、祐一の行動が光代を共犯者にしないための、利他的なアクションであることを理解するだろう。

 ラストシーンで光代は、花束を抱えて祐一が佳乃を殺した現場を訪れる。そこに偶然居合わせたのは、佳乃の父・佳男(柄本明)。光代を乗せたタクシーの運転手は悲痛な面持ちの佳男を見るなり、犯人である祐一を罵る。それを受けた光代のセリフは一様に解釈できない、複雑さを孕んでいる。「あの人は、悪人なんですよね」。

 悪人とは何か? 観る者を根源的な問いに直面させる本作は、祐一と光代が並んで水平線を見つめるカットで幕を閉じる。涙目で光に照らされる祐一の表情に悪を見るか否か。解釈は観客一人ひとりに委ねられる。

(文・シモ(下嶋恵樹))

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【了】

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